愛でなく

2006/03/23

 

 白い背中が月明かりに浮かぶ。
 このまま噛み付いたら、そこを流れる血はどんなにか美しいだろう。
「必死さね。そんなにオレのこと好きなん?」
 生温かい舌が、白濁とした体液を追って蠢く。ぞくりと肌があわ立った。
 こんなことに興味のある人間だとは思っていなかっただけに、好きだと打ち明けられた時には、天地がひっくり返るほどに驚いた。
「んんっ、ふっ」
 抱いてやってもいいと笑った時には、彼はいつものように眉を寄せて口唇を噛んだ。
 背に踊る長い黒髪がやけに淫らで、凶悪な気分になったとしても、自分の目の前でボタンを外した彼には何も言えないだろう。
「ユウ、どこで習ったんさ? 巧いね、舌遣い」
 でももっと喉の奥まで飲み込んで、と後頭部を押して己を飲み込ませる。くぐもった声が聞こえてきたけれど、そんなものは知ったことか。
「んぁっ」
 口での奉仕を続ける神田の脇のラインを手のひらでなぞる。たったそれだけでも敏感に反応を返す彼が面白い。抱いてやってもいいと言ったのは好奇心からだったが、間違ってはいなかったらしい。
「ん、ん、あ」
「ダメさユウ。ちゃんとしてくんなきゃ」
「んぐっ」
 指の腹で硬くなった胸の飾りを捏ね回すと、相当気持ちがいいのか腰が揺れ、悦楽が口をついて出た。当然のごとく中断された奉仕が気に入らないラビは、神田の髪を引き掴んで行為に押し戻す。
「んん、ん、ふ……うっ」
「あぁ、すげぇイイさユウ……イキそ」
「ラビ」
 先端で名を呼ばれ、微妙な接触が快楽を引き起こす。さすがに同じ男だ、どこをどんな風にすれば気持ちがいいのかを心得ている。ちゅぷちゅぷと淫猥な音を立て、神田はラビを飲み込んだ。
「つっ……う」
「……!!」
 喉の奥に放たれ、息が詰まる。押し戻そうにもラビのそれは口唇を占領していて叶わない。
「全部飲んで、ユウ」
「ん……んぅ…!」
 確信的なものだとわかっても、神田はどうすることもできなかった。
「ハイよくできました。ユウのもしてあげよっか?」
「あっ」
 掴まれた髪ごと身体を引き上げられて、頭皮の痛みに声を上げる。ラビは正面から神田の姿態を視姦し、口の端を上げた。
「すげぇなユウ。オレまだユウのそれ、触ってないよな? もう濡れてるさ」
「!!」
 目を向けずとも、自分の身体のことなど解かっていた。ラビを口に含んだだけで自分が反応していることなど、もうとうに。羞恥で視線なんか合わせていられない、と顔ごと逸らす。それを面白がって、ラビは笑った。
「なぁ? オレにしてるだけで感じちゃったさ? こんなにヌルヌル」
「っ……!」
 指先で、立ち上がった先端を擦られて肩が竦む。先端から溢れ出す蜜は、淫らな音を奏でた。とても普段の彼からは想像もできず、潔癖と思えるその男が、自分の目の前でこんな痴態を晒しているなんて、滑稽で笑えてくる。
「ユウ、一人でするときってやっぱオレのこと考えながらヤッてんの?」
「あっ!」
 ぎゅうと握りこんでやると、顎を上向けて快楽を訴える。伸びる喉のラインが美しくて、ラビは目を細めた。
 この身体全部が快楽に汚れたら、どんなふうだろうかと想像して。
「自分の手、オレだと思ってヤッてるんさ? お前の中のオレは、どんなふうにユウを抱く?」
「〜〜〜や、ラビ」
「なに」
「そんな…ふうに……っ言うな…!」
 自分の痴態が耐えられないのか、それとも嬲る言葉にさえ快楽を見出しているのか、閉じた睫毛に雫が光る。
「じゃあどんなふうに言えば満足なんさ。ヤッてないなんて言わせねーよ? それともなに? 身体なんて求めない純愛だとでも言いてーんさ?」
 自分から脱いだくせにと神田の脚を抱え広げる。そこに自分の身体を割り込ませ、押し倒した。もとより抵抗らしい抵抗はしなかったけれど、それでも押しのけようとする弱い腕をひとつにまとめ上げる。
「ふぅん……イイ眺めさね」
「ラビ! 離せ…っ」
「なぁ、一人のときどんなふうにやるんさ? オレに犯されること考えながら?」
 くすくすと笑う声が、自分でも耳についた。こんな自分のどこを、この男は気に入っているというのだろうか。女に興味がないわけでもないようなのに、よりによって同性の自分とは、笑わせてくれる。
「い、いやだ見んなッ……!!」
「見られるの嫌? じゃあどうして欲しいんさ。自分から脱いだってことは、抱いて欲しいんでしょ?」
「ん!」
 笑いながら奥の窪みをつつくと、ビクリと背がのけぞった。その反応は見ている側にはとても愉快で、ましてやこの男が自分の下で喘ぐ姿など想像もしていなかっただけに、その感情は倍増する。
 もっと嬲ったら、どんな痴態を見せてくれるのだろうかと嗜虐心が湧いてくる。
「ねぇ、ここに突っ込んで欲しいんじゃねェの? 突っ込んでかき回して……オレのでイキたいんでしょ?」
「あ、……やっ」
 もう腕を解放しても、押しのけようとはしなかった。ぎゅうとシーツを握り締め、必死に耐えようとする様は本当に淫らで仕方がない。
「ユウ、お前男初めてじゃねぇだろ。誰にヤらせてんのさこの淫乱」
「違っ……あん」
「違う? んなワケねーじゃん……ホラ、ちょっと指入れただけでそんな腰振って」
 確かに入り口はキツいと言えるだろう。だがそれもどうだ。第二間接まで入れて少し動かしてやると、もっと奥に、とねだるように腰を振る。キツいと思ったそこはもう湿り気を帯びて、ラビの指に絡みついた。
「あ、あっ……いやだラビ…っ」
「うわすっげぇ……こんな奥まで入るさ。やらしー」
 指をもう一本増やして奥まで入り込む。温かな内襞が指を食らい、淫猥な音を響かせた。
 わざと聞かせるように指を動かし、ラビは耳元で神田を嬲る。
「…な、ユウ。お前のここ、すげぇぐちょぐちょ。抜こうとすると締め付けて……それでもこんなんじゃ足りねぇって言ってるぜ……?」
「そんっ……ぁ、あ、んあ…っ」
 潔癖そうなな彼には、卑猥な行為と言葉が何よりも堪えるだろう。そして思い通りの反応に、ラビは知れず口の端を上げた。


 面白い玩具を見つけたと。


 自分の成すことにこれほどまでに反応を返す身体を、見過ごすにはかなり惜しい。愉快なことにこの男は自分を好いているという。惚れた男になら多少嗜虐を強いられても構わないだろう。そうだそして時折愛しているとでも囁いてやれば、きっと幸福なことに違いない。
「ユウ、オレのこと好き?」
 神田は持ち上げた目蓋を再び閉じて、そして再び閉じた。雫の光る睫毛を揺らして、ゆっくりと頷く。どうしようもないのだと、涙ながらに言い募る神田に、ラビは目を細めて笑った。
「可愛いな、ユウ」
 憐れみさえこめた、嘲笑だった。
「じゃあ指だけでイケたら、ご褒美あげる」
 そう言って、差し込んだ指を折り曲げてはかき回す。苦痛とも快楽とも言いがたい神田の悲鳴が、冷えた口唇にに飲み込まれていった。
 噛み付くようなサディステックなキスでさえ、欲しいと告げる哀れな男を、組み敷いて散々に犯す。
「愛してるさ、ユウ────」
 それは間違っても、愛でなく。