薄情

2005/01/29



 薄情、だと思う。
 これだけの人数がいて、寝食を共にしているというのに。
「不便、だな」
 神田は乱れかけた髪をかき上げる。指の隙間からぽろぽろと零れ落ちていく細い黒髪は、あの男がいつか好きだと言ったもの。



 エクソシストの出動と帰還は、エクソシスト同士で知り合えるものではない。連絡を取り合うとすれば無線ゴーレムでのみなのだが、それだって常備しているわけではない。
 指令を出す室長や、聞いていればその周りのものがエクソシストの動向を把握していればいい、などと組織している割には曖昧だ。


 昔はそれをなんとも思わなかったのに。


 神田はタンタンと階段を降りる。どうしても早まってしまう足取りを、他人に気取られないように。
 最近ようやく、【気に入っている場所】というものを理解できた。
 きっとそこにいるはずだ。


「情けねェ…」


 帰還を、他の誰かの口から聞かされるなんて、と舌を打つ。
 イチバン最初に貴方に逢いたい。
 そう思ってしまう自分に腹が立った。


 こんなのは自分であるはずがない。


 そうは言っても、【気に入っている場所】である礼拝堂にその姿を認めただけで高鳴ってしまう心臓は否定のしようがなく。
 男は神田に気づき振り返った。


「ユウ!」


 そうだ、この声だ。
 ゴーレム越しでなく、直接耳に入る、その音。
「帰ってくるなら連絡くらい入れろ、ラビ」
 ステンドグラスに透けるオレンジの髪が眩しくて、眉を寄せる。
「だーってオマエがいるとは思わんかったんさ〜」
 立ち上がり、一歩一歩脚を踏み出してくる。
 神田は自分から歩み寄ろうとしない。向こうから近づいてくるのを知ってしまっているから。
「ユウ、1ヶ月ぶり」
 ぎゅ、と抱きしめてくれる。変わらない温もりが、神田を安堵させた。
「…1ヶ月と12日だ、薄情者」
「細けーな……そんなに寂しかったん?」
「なっ、何をほざいてやが────」
 火照った頬にゆるりと口づけられ、それは口唇へと移動する。
 冷たいと思っていた自分の口唇に相手の熱を移される。



 その瞬間が、幸福な時間であると言い切れる。



「……ぁ…ぃ、…た、かった」
 肩に、顔を埋める。
「ん。オレもさ」
 ぎゅう、と抱きしめる腕に力がこもった。


 神様
 かみさま


 貴方を信じていないワタシたちを薄情と思うのならば


 このまま


 石にでも