Oh Happy Day

2006/12/25



 あ、と顔をあげた。
「ほらユウ、賛美歌が聞こえるさ」
 頭の向こうにある窓を逆さまに見て、その音を追う。
「あぁ? あー…」
 隣に横たわる恋人は、疲れきった声でそう返してきた。もしかして起こしてしまったのか、と詫びると、別にいいと頬を摺り寄せてくる。
 珍しく甘えてきてくれた、と頬を緩め、その身体を抱きしめた。普段の彼は、あまりこんなふうに人肌恋しい素振りを見せないというのに。
「無茶させたさ?」
「少し疲れてただけだ。気にするな」
 そういえば彼は今日任務から帰ってきたのだった。そのままコムイが主催するクリスマスパーティーに参加して、アルコールに少し火照った身体で、彼の部屋に二人でなだれ込んだ。
 そうだ今日はクリスマス。イエス様が生まれた日。
 別にクリスチャンではないし、祈ったってこの世界が平和になるわけではないことくらい、分かっている。ただ何かしらの理由を付けて、お祭り騒ぎがしたいだけ。
 教団の中にはちゃんとしたクリスチャンもいるから、そんなこと言って回ったりはしないけれども。
 だけど世間の恋人たちは、クリスマスにかこつけて、プレゼントを贈ったり愛を語り合ったり。一年に一度のこの特別な日を、幸福そうに過ごすのだ。
 世間一般の恋人たちのように、誰からも祝福されるような幸福な間柄ではなかったけれど、そんな日くらい、自分たちも特別な日を幸福に過ごしてみたい。
 数日前、彼が任務に出かけてしまった時は仕方ないかと方を落とした。
 自分たちはエクソシストで、何をおいても任務が最優先。クリスマスを共に過ごしたいからと言って聞いてくれるはずもなく、何よりもまず、彼自身がこういったお祭り騒ぎに興味がなかった。
 任務に出かける前ちらりと言ってみたけれど、だからなんだとでも言うようにため息をつかれたのだけれど。
「ユウ、今日はどうしたんさ? パーティー参加するなんて、珍しいよね」
 胸の上に乗せられた頭を撫で、柔らかな髪を梳く。そうされることが好きらしく、彼は猫のように身体を丸めた。
「ユウがこんな早く帰って来れるなんて思わなかったさ」
 その上馴れ合うのが嫌いな彼が、それに参加するなんて。
 そういえばパーティーホールに入ってきた彼は、ひどく急いでいたようなことを思い出す。任務から帰って、入浴でもしてきたのか少し濡れた髪が印象的で、思わず見惚れたのも覚えている。
 すぐさま駆け寄って、シャンパンを渡したら、少しだけ笑って受け取ってくれた。
 どこかホッとしたように。
「任務大変だった?」
「やめろよ、こんなときくらい、任務の話は」
 突然に彼は身体を起こして、眉を寄せて見下ろしてきた。何か怒らせるようなことを言っただろうかと考えているうちに、彼は寝転がって背を向けてしまう。
「ユウ」
 しまったと思った。彼は一度機嫌を損ねると、直るのに少し時間を要してしまう。何に怒っているのだろう、と覗き込んだ。
「ああ大変だったよ、レベル2が2体もいやがってな。一筋縄じゃいかなかったぜ」
「ユウ、ごめん」
 そんな任務を終えて、この教団に帰ってきた彼を酒の席に誘い、あまつさえ身体の負担になる行為を仕掛けてしまったなんて。
 クリスマスとかそんなことより、彼の身体のことを考えてやるべきだったのに。
「お前がそんなに鈍感だとは思わなかったよ」
「え?」
 何のことを言っているのか分からない、というように返したら、少しの沈黙を破って彼がゆっくりと振り向いて見上げてきた。明らかにこれはふてくされてる顔、だ。


「お前が言ったんだろうが、クリスマス一緒に過ごしたいって」


 目を瞠った。
 まさか…………まさかそれを叶えるために、急いで帰ってきたのだろうか?
 嬉しくて、泣きそうになって口を押さえる。
「……泣くなよ」
「まだ泣いてないさ」
 彼はごろりと仰向けになって、仕方ないヤツだと引き寄せてくれる。何気ない仕種に優しさを感じて、また泣きそうになった。
「ありがと……ユウ」
 何度恋をしても足りない。毎日恋をしても、きっと足りない。
「ユウ、何度も言ったけど、も一度言うね」
 笑ってそう言うと、ん?と首を傾げる、愛しいひと。
「メリークリスマス、ユウ。愛してるさ」
 嬉しそうに目を細めた彼が、髪を梳いてくれる。
「メリークリスマス、ラビ。愛してる」
 来年もまた、共に過ごせますように。
 引き合っていく口唇に、願いを込めた。