幸福な時間

2005/01/30



【幸せ】って、こーいうの言うんかなあ。



 珍しいな、と思う。
 こんなに無防備に寝顔をさらしているなんて。


 温かな陽の光が優しくて、その空間だけ違う世界、に見えた。
 中庭のベンチ、ひっそりとまどろむ愛しいブラック・キャット。
 自分が近くにまで来たことにさえ、気づいているのかいないのか。

 どちらにしろ。

 どちらにしろ、この存在を許容してくれているのだ。
 なんという幸福だろう。


「ユウ」


 呼んでもやっぱり起き出さない。
 相当疲れているのか、その世界から出たがらないのか。

「イタズラ、するぞ」

 そんな風に半分本気で脅してみても、ピクリとも動かない。
 さてどうしたものだろう。
 このまま見つめていようか本当にイタズラしようか。

 少し考え、額を寄せ、ゆっくりと髪に口付けた。

 こんな幸福そうな寝顔を見せられては、これが今できる精一杯の【イタズラ】だ。陽の匂いがする髪を愛おしみ、この上なく幸福な気持ちで微笑んだ。


「オレも、寝よ」


 起こさないようにと隣りに座り込み、目蓋を閉じる。
 すぅーっと沈んでいく意識に、陽の沈みも重なった。
 自分こそが疲れていたのだろうか、大きな睡魔にぱっくりと包まれてしまう。
 数分後には、穏やかな寝息が風に乗って流れていた。


 それを見越したかのように、持ち上がった目蓋は黒猫のもの。
 肩に頭を預け幸福そうに眠る男を見下ろした。

「……馬鹿か、コイツ」

 どうやら意識があったようでやや頬を染めながら────