今はただ

2006/10/31



 あのひとはボロボロだった。綺麗だった肌は焼けて、ところどころただれている。
 追いついてきた彼を見て、泣きそうだったのはリナリー。その姿に驚いて目を瞠ったのはアレン。大丈夫か、と恐る恐る声を投げかけるのは、チャオジーとクロウリー。
 オレは。
 オレは頭のてっぺんから足の先までユウを眺めて、少しだけ口唇を噛んだ。
「カンダ、その傷っ……!」
 駆け寄るリナリーも無視して、さっさと先に進めと先頭にいたアレンを睨みつける。
「……ついて来れるんですか?」
 時間がない。ユウを気遣ってゆっくり歩くなんてことは、していられない。アレンの確認に、ユウは不敵にハッと笑った。余計な心配するな、と。
「ただ、六幻がこの状態だから、戦うのは難しいかも知れん」
 溶けてボロボロになった、対アクマ武器。この状態じゃもう、発動するのがやっとではないだろうか。そんなに激しい戦闘だったのか。
「そんな満身創痍のひとに戦ってもらおうなんて思ってません。先に進みましょう」
 思ったより冷静そうなアレンも、眉間に刻まれる皺は、普段では見られないもの。ユウをここまで苦戦させるノアの戦闘力に、焦りは感じているようだ。
 それでも立ち止まっている暇はない。アレンが歩き出し、その後をリナリー、チャオジー、クロウリーと続く。ユウがゆっくりと足を出したのを確認して、隣につく。
 近くで見ると、疲労が激しいのは充分わかる。そして、たとえ遠目からでもわかる位、形を変えた梵字。
「ユウ」
「なんだ」
 声をかけると、声を出すのもしんどい、というようなテンポで返ってくる。
 歩きながら、静かに口にした。


「また、残量が減ってるさ」


 またどれだけ命を削って戦ってきたのか。ユウの命は、残り少なくなってきた。
 全てを知っているのは、教団じゃオレとコムイくらい。止めても無駄なことを知ってるのも、オレとコムイくらい。


「そうだな」


 何でもないように、ユウは前だけ見据える。
 ユウは自分の命の在り方を知っている。だから全力で生きているんだ。
 そんなユウを愛したのは、オレ。
「ユウ」
 そっと手を握る。痛いかと訊ねたら、そっけなく別にと返って、彼らしいと微笑んだ。
 互いに指を絡ませて、目を閉じる。
 前にはみんないたけれど、そんなこと気にしてられない。



 ゆっくりと重ねた口唇は、少しだけ血の味がした────。