鼓動

2005/06/17



 カツカツと足が鳴った。いかにも硬そうな音は、疲れたように揺れる。
 少し遠くから混じった同音に、顔を上げる。
 自分が上っている階段とは別方向の階段を上る、相手の姿をそこに認め、足を止めた。相手も気づいたようで、視線が絡む。帰還が同じタイミングだなんて、こんなところで生きる、一生の内であるかないか。
 実際、こんなにぴったりと鉢合わせたことなんか、これが最初だ。
 お互い同じタイミングで足を前に出し歩き始める。リズムのいい足音は、聞きなれないスタッカートを引き連れて。
「久しぶり」
「ああ」
 どれくらいぶりだろう?と上りきった踊り場で出逢う。自嘲したような笑みは、逢えない期間がきっとあまりにも長かったから。
「任務、どうだった?」
「いつもと大差ない」
 キスをするより早く、すいと腕を伸ばして互いの左胸を探った。


トクントクントクン。


 刻む心音は温かくて、自分の心音と寸分の狂いなく重なればいいなんて思う。
 手のひらから流れ伝わる、規則正しいリズム。
「……ラビ」
 だけどラビの鼓動が少し速いと感じたのは、きっと気のせいではなかった。
「間に合わなかったんさ」
 …何がと訊くほど野暮じゃない。片腕で、ぐいと首から抱き寄せられて、自分も黙って片腕を背中に腕を回した。
 自分達は、こんなにも頼りない、片腕の抱擁にいったい何を求めているのだろう。
 慰めじゃない。癒しでもない。ましてや懺悔など。



「目の前でまた探索部隊が死んでった」



 怒りに任せてアクマを破壊したと、震えを抑えるために、ラビは神田を強く強く抱きしめる。
 ただ、縋る。
 その鼓動に。その体温に。その吐息に。
「ねぇユウ…生きてる?」
 誰が。
 私が。
 貴方が。
「バカか」
 不安がったラビのこめかみに口づけて、神田も彼の肩に顔を埋める。
「オレの鼓動、聞いてろ」
 オマエのと一緒に動いているだろうと、声に出さずに伝え。


 ト、クリ
 トク、リ
 トクリ


 合わさった身体の間で二重奏が始まる。
「重なったさ」
「黙ってろ、聞こえねェだろ」
 ふたり、ぎゅうと抱き合って、相手の鼓動に、自分の鼓動に、耳を傾ける。
 帰還し顔を合わせれば、何よりも先に鼓動を確認するようになってしまったのは、儚い命の無情。
「ユウの…心臓、ねぇ半分ちょうだい」
 どうしてこんなにも、離れていられたのですか。
 こんなにも、
「無理言うな」
 こんなにも愛しているのに。
 いつどこで、私はアナタを失うのでしょう。
「くれないなら、生きて」
「お前こそ、俺の知らない所で死んだりするな」
 確かめた鼓動と体温を、この手のひらが忘れる前に、
「今日は風が冷たいさ…」
「てめぇのせいで身体が冷えた。…暖めろ、ラビ」
 アナタに逢いたい。