黒髪と体温と

2005/05/15



 眠る時は、いつも悩むんさ。まあそれは、次の日の任務とかその日の出来事を思い返して…なんて殊勝な理由でなく。
 それは大抵、隣りに眠る恋人の。



 ああ、いつ見ても綺麗さ。この髪の毛。
 今さっきまでこのシーツにバラバラと零れ乱れていたのに。す、と梳くとスナオに指が通る。
 綺麗、って言葉しか出てこないさ。


 そんで。
 そんでオレが。何を悩んでるかとゆーとさ。


 どうやったらユウの髪を巻き込まずに寝れるかってこと。



 ユウの髪は長くて、とても長くて、この髪で縄梯子でも作って俺を引き上げてくれればいい…なんてそんな童話考えてる場合じゃねぇっつの。
 えーとどうしよう。
 ユウ起きちゃうかな。
 この髪をオレの下敷きにするなんてとんでもねーし、かと言ってそんなん口にしたらユウは切るって言うに決まってて。そんなんオレが死ぬさ。もったいねぇ。
 だってこの髪はオレが気に入ってるもののひとつだもん。もちろんこの髪だけが好きなわけじゃねーけど。ユウを飾るに相応しい、つややかなビロード。
 だから、傷めないように細心の注意を払うわけで。
「……だ起きてんのかよ、ラビ」
「あ、ワリ。起こした?」
 もそりと身をよじるユウ。ああ、失敗した。
 ユウはこの上なく疲れてるはずなのに、オレときたら。
「寒い」
「え」
 そういえば最近朝と夜が寒いな。汗かいた後だし、余計冷える。オレは毛布を引っ張り、ユウの身体にかけようとしたけど。
「わっ!?」
 ユウに腕を引かれ、予期せぬ力を加えられたおかげでオレは背中からベッドに崩れた。
 僅かに身体がバウンドして、衝撃に瞑ってしまった目をどうしたんさ、と開くと、身体のあちこちに紅い華を咲かせたユウが見下ろしていて。
 うわぁマジやばいこの角度。いちばん綺麗。
「寒い。ここ、貸せ」
「へ? ユ…」
 そういうと、ユウは。
 ぺたんとオレの胸の上に被さってきて。心地良さそうに頬を寄せた。
「早く、寝ろ」
 胸の上に黒髪が踊る。その感触は本当に気持ちが良くて、思わずユウの頭を撫でた。するとユウはネコみたいに丸くなって、ゆっくりと目を閉じた。
 ああもう、本当にこの人は。
 かわいいことを、してくれる。
「うん。おやすみさ、ユウ」
 体温て、こんなに安心するもんだったんさ。
 オレはユウの髪を無意識に弄びながら、心地よさに誘われた睡魔を、拒むことなく受け入れた───