共犯者

2005/05/04



 口唇を離すと、こんなに近くにいるのにどこか遠くにいるようなモノを見つめてた。
「…どうしたんさ? ユウ」
 気がついたように何でもないと目を逸らす神田に目を細める。この人は本当に、嘘をつくのがヘタだと思う。そもそも、巧い嘘がどういうものか、きっとわかっていないんだろう。
「ウソツキ。ちゃんと言わないと、このまま突っ込むさ?」
「無茶言うな」
 やんわりと脚を撫でたラビの手のひらに息を呑んで静止した。慣れた身体とはいえ、そんなこと、いくらなんでも無茶だろう。
「ただ……なんにも知らねェな、と思って。お前のこと」
 ため息混じりに口にした。
 今さら何を、と笑った。
「気に食わねーんだよお前のその顔。裏に何隠してやがんのかさっぱりわからねえ」
 ベッドの中こんな状況で言うことでもないと、神田は自分でも承知していたけれど。


 不意に頭をよぎった、コトバ。


「俺はてめェの名前も、生まれた土地も、守りたいものも、何も知らねェ」


【そんな綺麗な理由、あんま持ってないよ】


「何を守るために、どんな理由で、ココにいて俺を抱いてる?」
 自分だってそんなに、大した理由を持っているわけじゃなかった。ただココに連れてこられて、わけも分からないままイノセンスの適合者に祀り上げられ、それでもあの人が笑ってくれるなら、それでもいいと思ってた。
「わかりやすいな、ユウ。オレがココにいる理由なんて、どう考えたってもう、1個しかないのにさ」
 眉を寄せて、自分の上のオトコは悔しそうに片目で笑った。
「でもそれでも、おあいこじゃんさ? オレだってね、ユウのほんとの名前、知らないもん」
 ピクリ、と肩が揺れる。
 目を逸らしたい、あの日の出来事。なくしたものの大きさ。しがみついた親友の腕。
 あの時食い込んだ爪痕は、今もこの男の左腕。
「イラつかせんじゃねェよジュニア……っ!」
「イラついてんのは、オレも一緒さ。ベッドん中いる時くらい、オレに集中して」
 優しくない距離が近くなる。
 親友と呼びきるには距離がどうにも近すぎて、恋人なんて甘い関係でもなくて。
 言うなれば────共犯者。
「もうすぐ命日さね、ユウ。今年こそちゃんと、花くらい贈りなよ」
「余計な世話だ。てめェ絶対俺のこと嫌いだろ」
「そんなコトないってー。ちゃんと、愛してるさ? ホラ」
 言って、ふたり。
 噛み付くようなキスをした。


 あの日まであと僅か────。