Meet again

2006/08/22



 最初に目で追ったのは、アクマの巨大な集合体と、袂で戦闘を繰り広げる、鮮やかな髪の色。
 怪我をしているのか、僅かに動きが鈍いのは、離れたここからでも解かった。思わず舌を打ってしまう。
「マリ、向こうのデカいやつ、援護に回れ」
「わかった。元帥はここで。イノセンスの守護を頼みます」
 健闘を。そう言って3つの影が夜に溶けていく。



 かつて、これほどまでに殺意をこめたことはあっただろうか。
 苦戦している男と、苦戦させている男に腹が立っているのだろうと解かっても、それを認めきることはできなかった。
 集めきれるだけの感情をもって、剣気へと変えていく。ざわりと背筋を走る快楽は、シンクロ率が最大値になっていることを教えてくれた。



「食いちぎれ、六幻」



 静かな声と共に振り下ろされた、殺意がティキ・ミックの左腕を食らう。
「がッ……!」
 微かなうめきは聞こえたけれど、ラビはそれよりも、攻撃を仕掛けてきた声の方を追ってしまう。上空に綺麗な弧を描いて、黒の団服がバサリと舞った。
 神田の左手がラビの左肩に置かれる。それを台にして、神田の身体は宙を舞う。身軽に回転し、タッと足を地につけた。カシャリと瓦が鳴って、物体が増えたことを物語る。
「ユウ、来てたんか」
「戦況は」
 手を伸ばせば容易に触れられる、距離。だけどふたりの視線は、まだ絡み合わずにいた。目の前の、敵だけを見据えて。
「うーん、微妙」
 六幻で攻撃したはずのノアの腕は、大した傷を負っていないようで、神田はチッと舌を打った。
「後ろから不意打ちたぁ、随分セコい手使ってくれるじゃねーの、【自称】神の使途サマが」
「ハ、綺麗事言わせてぇのか。勝ち残りゃいいんだよ」
「……ま、真理だね」
 ギラリと睨みつける神田の視線を難なく受け止めて、身構えるティキ・ミック。
 神田は、六幻を握った右手が震えていることに気づいた。ニッと口の端を上げて、
「見ろよ。てめェを食い殺したくてうずうずしてるみてーだぜ」
「ハ、綺麗なカオして空恐ろしいこと言うね」
 戦闘は、どうしても避けられない。神田もラビも、攻撃のためにイノセンスを構える。
「あーあ、ゆっくり再会を喜ぶ暇もないさね」
「おい、お前右腕ヤッてんのか」
 ふたり、敵を見据えたまま声だけ投げる。風でなびいた神田の黒髪は、ラビに触れることはなかった。
「あー、ちょっと」
「情けねぇぞ、バカうさぎ」
 ため息混じりに呟かれたそれに、返す言葉はない。それでも、
「そうだユウちゃん。オレ右腕痛いからさー、えっちする時ユウが上に乗って動いてくれるさ?」
 からかうためでもなく、至極マジメに吐いた。どれだけか予想していたのか神田が動じることはなく、
「お前はまた、こんな時にまで」
「えー、オレにとっちゃ大事な問題さ」
 ハハハと笑いながら、何てことを言い出すのだろう、と神田は思うが。この男はこういう性格なのだと割り切らないと、やっていけない。
 目を細めて、挑発的に笑ってやった。
「俺を抱きてぇなら、さっさとここ片付けろ」
 視線が、一度だけぶつかる。それはすぐに途絶えてしまったけれど、それでも幸福な気分でいられた。
「オッケー任せて」
 どれだけ振りに、こんなに近い距離で声を聞いただろうか。
 触れたくて仕方がない。お互い触れ合いたくて仕方がないんだろうけど、今はそんなことをしている場合ではない。気の抜けない敵が、今目の前にいるのだ。
 大切な人の生死は確認できた。後はこの大きな敵を倒すのみだ。
 そして笑って抱き合おう。
 ああ考えただけで気分が高揚してくるじゃないか。
 ふたり、イノセンスを握りなおした────。