新しい世界

2006/02/25



「ねぇユウ、ほんとにいいの?」
 まだ湿った髪をわしゃわしゃと撫でながら、ラビが訊ねた。
「い、いいって言ってるだろ……!!」
 乾いたタオルに身を包み、少し俯くユウを、ラビは苦笑で包む。了承を得たのは、ほんの数分前だった。大浴場で視界に姿を入れて、冗談交じりに呟いた。


 ユウがほしい、と。


 意味が解からないはずはなかったんだ。これまでも、寸前までは何度もあったし、腰が砕けるような口づけだって、何度も何度もしてやったことがある。自分の中に渦巻く劣情を、ユウが知らないはずはなかった。
 びくりと肩を震わせて、それでもこくりと頷いたのを、ラビが見逃すはずも、また無かった。
「ねぇ、でもオレ、結構余裕ないさ? 今でも、ねぇ、こんな。心臓バクバク言ってんのに」
 今日は途中で止めてやることなんてできない、と呟いて、半裸のユウの腕を取る。突然の接触に驚いたユウが、それを振り払ってしまったのは、まぁ、仕方ないといえば仕方ないことで。
「あ……」
「……ね、ユウ。オレ…ユウのこと大切にしたいんさ。ユウを抱きたいのは本当だけど、オレだけのワガママで、ユウを抱きたくはない」
 嫌ならはっきり言ってくれ、と振り払われた腕をじっと眺めた。
 この人が大切なんだ。
 大切で大切で、仕方がないんだ。
 自分の劣情で穢してしまうのは、どうしても気が引ける。
 口唇に触れて、入り込んで、舌を追って、捕らえて貪って。それをするのでさえ、未だに躊躇われるのに。
「ユウが、いいって言ってくれたのはオレ、ほんと嬉しいんだけどさ。……無理、してほしくない」
 気を遣っているのならそれは逆に辛い、と俯く。
 何度も何度も夢にさえ見た。彼を組み敷いて、自分のものにしてしまうこと。思春期の性欲、と言ってしまうにはあまりにも非現実的で、その欲望を彼に知られていることが、この上なく罪深いことのように思える。
「ラビ」
「ユウ、ユウやっぱ今日やめよ。良くないってこんなの」
 戸惑うユウの表情からも、行為への躊躇いは充分見られる。そんな状態の彼を抱いても、何にもならないだろう。ラビはことさらさり気なく笑って、顔を上げた。


 ガッ


 途端、変わる視界。
 揺らいだ身体は、右足でどうにか踏ん張った。鈍い痛みの走る頬。舞ったタオルが、ぱさりと床に落ちた。
「ユ……」
「てめェは! 俺に恥かかせる気なのか!!」
 顔を戻して振り向くと、そこには顔を真っ赤にして怒る、ユウの姿。
「お前がいちいち何に悩んでんのか知らねぇがな、お、俺がどんな思いで……いいっつったと思ってやがる……!」
 欲しいと言われたときの事を思い出したのか、次第に視線が逸れていく。ラビの頬を殴りつけた拳も今では解け、震えながら口許を押さえていた。
「そりゃ、やっぱ、怖ぇし、自分がどんなんなっちまうか、全然わかんねぇ…っ」
 たまにするキスにだって、情けないくらい自分が壊れてしまいそうだというのに。その上更に別の快楽なんて、とてもじゃないが想像ができない。
「もしかしたら俺、お前が思ってるより全然ダメかも知んねぇし、何をどうすりゃいいか……わかんねっ……」
 そこまで言って、近づいた気配に息を呑んだ。
 口許を押さえた手を、ラビに絡め取られる。そのままゆっくり降りてきた口唇を、素直に受け入れた。
「……ん…」
「ごめん、オレ……ユウの気持ちまで、考えてなかった」
 啄ばんで離れていく口唇を見送って、抱きしめてくる腕に酔う。
 それを感じ取って、ラビは息を吐く。どれだけの勇気を振り絞って、答えてくれたのだろう。今だってこんなにも、震えているのに。
「ユウ、好き……」
「……知ってる……早く来い」
「もう、何言っても聴かないからな……」
 ぎゅうと強く抱きしめて、震えが止まるまで口づけを繰り返す。
 二人でベッドに倒れ込む頃にはもう、息が上がっていた────。