白のアジュガ

2006/08/12



「ユ、ユウ、中……触りたい」
 もう布越しでは我慢できない。伸び上がって、正面から顔を覗き込む。涙の浮かんだ瞳に、野獣のような自分が映った。
「中、触らせて」
「…………」
 頼み込むラビに少し戸惑って視線を泳がせる神田。ややあって、恥ずかしげに首を縦に振った。
 両手で慌しくボタンを外し、ジッパーを引き下げる。いささか乱暴だ、と自分でも思ったけれど、我慢することがどうしてもできなかった。
「ぁっ……」
 直接触れられて、神田から小さな喘ぎが漏れる。布越しとはまったく違う感覚に、恐れはいまだにあったけれど。
「ラ、ラビっ……あ、ん、やあっ」
 指が先端を掠めていく。神田の身体を包んでいた衣服は引き抜かれ、隠すものが何もなくなる。こんな風に誰かの前で裸体を晒すことになるなんて、思ってもいなかった。
「ユウ、綺麗……すげぇ綺麗」
 想像していたより手触りのいい肌。熱い体温。敏感な反応。
「オ、お前も、脱げ、よ……っ!」
 恥ずかしそうに呟く声に気がついて、そういえば自分は服を着たままだと笑った。手早く脱いだ衣服は、ベッドの下に放る。二つの体の間に、遮断するものは何もない。素肌が触れた箇所は、直に汗と体温を感じ取ることができた。
 それが嬉しくて、喘ぐ口唇をキスで愛撫する。くぐもった声を奪い取って、両手で神田を包み込んだ。
「んんっ、ん、んぅ…っ!」
 根元を握りこんで、指を先端まで移動させる。形を確かめるような愛撫は段々と激しいものに変わり、濡れた音が響き始めた。
「や、いやだ、ラビっ……! な、に……何だこれ、変、や、いや…っ」
 初めての感覚に怯え、瞳の端から溢れてくる涙を拭い、必死でラビに呼びかける。自分はどうなって今っているのかと。今だってこの感覚に翻弄されているのに、この上何が起こるのかと。
「や、いやだラビ、離せ……っ」
「ダイジョブ、ユウ大丈夫だから、もっと感じて。ね、気持ちいいでしょ? 良くないさ?」
「あっ、ア、あ、ん……っも、わかんね……こんなの知らねぇ……っ」
 ふるふると首を振り、その度にまとわりつく髪を、涙を、煩わしいと思う。だけど拭うだけの余裕は、もうなかった。ラビの手指の動きを意識で追い、競りあがってくる感覚に怯える。
 自分でしたことさえないのだと気がついて、ラビは嬉しそうに口の端を上げた。
「ユウ、ユウ」
「あっ、いや、ッや、だ……!」
 神田の初めてを、自分の手が誘い出しているのだと思うと、たまらない愛しさに駆られる。このまますぐに入り込んでしまいたい、とは思う。実際もう、張り詰めた自身は解放を求めていきり立っていた。
「あぁん…っ、ん、ア」
 幹を扱き先端を刺激する。ビクビクと神田の足が震える。のけぞった喉のラインが美しくて、思わず背筋を震わせた。今でもこんなに色っぽいのに、達するときはどんな顔をしてくれるんだろう、と。
「や、ラビ、ラビやめ……ろ…っあぁっ」
 忙しなく動くラビの手に指に翻弄されて、意識が朦朧としてくる。いっそ酸欠状態に近い感覚だ。これ以上の快楽を与えられたら、自分はきっと死んでしまう。
「ユウ……ユウ…っ」
 最期に聴く声はこの男のものだといいなんて思って、ラビの吐息が相当荒いことに気がついた。
 この行為に興奮しているのだろうと、解かる。それをやっと認識して、カ、と熱が上がった。
 自分は何てことをしているんだろう。それでもラビの体温を嬉しいと思ってしまうなんて。
「んんっ、や、イヤだ、ラ……ビ、ラビ、も、は、離せっ……」
 自覚した途端感覚が鋭くなった。当然のように、身体を支配する感覚は快楽がほとんどを占め、自分がもう限界なのだということを知らされる。
「イヤさ、ユウこのままイッて」
「なっ、何言って、っあぁ!」
 爪先で先端を弾かれる。のけぞった身体はラビの手を止めることもできずに流される。
「あっ、あ、……ふ、うぁ…あ……っあ、あ、やっ……も…」
「ユウ、可愛い」
 熱い吐息が頬を滑り、緩急をつけて動かされる手に意識を攫われる。
「ん、あ、ぁあ……ッ、あ、や、あぁ…ア、あ、ああ────……ッ!」
 ビクビクと身体が戦慄いて、神田は初めて己を解放した。放った性はラビの手を濡らし、自らの腹を、胸を汚す。目の前が真っ白で、自分の身に何が起こったのかさえ、今は理解できなかった。
「ユウ……すげぇ色っぽかったさ……」
 そう呟いたラビの声も、届いているかどうか。
「貴重な【初めて】もらっちゃったんさね」
「っは、はぁ、はぁ……も、なに、がなんだか……わかんね……目の前、真っ白、で、何も……考えらんね……」
 頬にキスをされてようやく、声を出す。呼吸の整っていない状態では、言葉が途切れ途切れになってしまうのも仕方がない。
「酷いさ、ユウ、何もなんて。……オレのこと、考えて」
「バ、バカ……あっ!?」
 言われなくても、余分なほど考えていると返そうとしたが、動いたラビの手の行き先に驚いて、叶わなかった。
「こっちも、ちょうだい?」
「やっ……ふあっ…」
 濡れた指は奥の入り口を撫でつつき、中に入り込もうと様子を伺っている。
 ラビは先ほど神田が放った体液を練りこむように探り、指の先を入り込ませた。苦痛の混じった声が聞こえたが、ここで止めてやれる余裕などない。
「いっ……ラ、ビ……!」
「ごめんちょっと我慢、して。ユウの気持ちいいとこ探すから」
「気持ち、い、とこ? ア……っ」
 第一間接まで入れたところで、一気に指を押し進めた。第二間接をやり過ごしてしまえば、どれだけかは楽だろう。指先を軸にして円錐を描き、入り口をほぐす。
「い、たっ……や、いやだ……らび…っ」
 涙目で見つめられても逆効果。欲望のレベルが上がってしまう。ごくりと唾を飲んで、その顔から目を逸らすために俯くけれど、どこもかしこもお目の毒。
「ユウ、痛い、よな? ごめんさ、で、できるだけゆっくり、する、から」
 精一杯我慢してる。今できる限りの我慢はしてる。でもそれだって限度はあるのだ。今すぐにだって入り込んで彼を自分の恋人なのだと主張したい。身体のずっと奥まで埋め込んで、その熱い体温に包まれてみたい。
「ん、く、う……!」
 押し込んだ指を折り曲げて、内側を擦る。抉られる箇所が変わって、神田の苦痛がリセットされる。眉間に刻み込まれた深い皺が、それを物語っていた。
「ユウ、ここは?」
「ひぅ……っ」
 ある場所を指の先で刺激する。神田の身体がビクリと跳ねた。どうやらそこは、今まで感じた苦痛だけではないらしい。探り当てた性感帯を、執拗に攻めた。
「や、やッ……ラビ、そこっ、や、ぁっ」
「ここ気持ちいい? ユウ」
「違っ……や、いやだ……! そこ、触、んな、あ」
 脚が揺れる。立った爪先はシーツを掻き、その拍子で更に指を飲み込んでしまった。中で曲げられた間接は狭いそこを押し広げ、湿り気を帯びた音を奏でる。
「指、もう一本入れるさ?」
 力を抜いて、と囁きながら、入れていた人差し指を、ギリギリまで引き抜いた。名残惜しそうに絡みつく肉壁を振り切って、そして中指を添えて押し込んだ。
「ヒッ……い、あ、あ、やだ……も、や」
 指が増えて圧迫感も増してしまう。だけど、ばらばらに動かされる二本の指は、先ほど探り当てた性感帯を更に刺激してくる。
「ふっ……う、あぁっん」
 ラビの指の動きに合わせて腰が揺れる。溢れてくる涙を拭おうと手の甲を目元に持っていくけれど、顔を隠すなと絡め取られた。
「ラビィ……っも、いやだ、や、めっ……ぇ」
 くちゅくちゅと濡れた音が、自分の耳にも届けられる。浅ましくてイヤになる。こんな醜態を晒してみっともないと神田は思うのに、それでも自分に覆い被さっている男の息は荒い。
「ユウ、ユウ……、すげー可愛いさ……」
 言うか言わないかの内に口唇が重なる。せめてキスにくらいは精一杯応えてやろうと、神田は自ら舌を絡めた。
 唾液が口の中で混ざり合う。口の端から零れた雫など、気にしてなどいられない。ラビの望むように応えられているのか解からない今、こうしてキスで意思を伝えるしかなかった。
「ん、んっ……んぁ」
 キスの途中で指を全部引き抜かれて、肩が揺れた。閉じていた目蓋を持ち上げると、辛そうに眉を寄せた恋人の顔。伝う汗が、顎を通って神田の首筋に落ちた。
「ユ、ユウごめん、あの、ちゃんと、ゆっくりする、から」
 指でどれだけかほぐされたそこに、熱い塊が押し当てられる。
「挿れて、いい……?」
 また我慢させてたんだ、と気がついて、しばし目を泳がせて神田は、
「あ、そ、その……俺、どうしてたらいい? こういうの、わ、わかんねぇし、その…お前が望むようにできねぇかも知んねー」
 困ったように問いかけた。ラビはそれに目を瞠り、次いで嬉しそうに微笑んだ。
 何を言っているのだろうこのひとは、と。今でも充分に応えてくれているのに。
「可愛いこと言ってくれるさユウ……えと、じゃあ、……力、抜いてて」
「ど、努力する」
 目を閉じる仕種が、緊張しているのがわかる。頬にひとつキスを落として、ラビは再度指先で入り口をこじ開け、猛る自身を押し当てた。
「うっ……」
 ビクリ、と神田の身体が震える。
 指でほぐしたとは言え、受け入れるためのものではないそこは、当然狭い。手を添えて入り込もうとするけども、僅かに進めただけ。
「いっ……! ラビ、や、無理、痛い……ッあ」
「ユウ、ユウ力抜いて」
 指なんかとは比べ物にならない苦痛が神田を襲う。拒絶され締め出される苦痛が、ラビを襲う。
 先端さえ入りきっていなくて、このままでは何もできない。
「い……って、……っ、く」
 苦痛に耐えようとするせいか、神田の身体にはますます力が入っていく。ぼろぼろと流れ落ちる涙と、噛みしめた口唇が、見ていて痛々しい。
 ────ど、どうしよう……どうしてやったらいいんかな……。
 ラビはゆっくりと押し進めていた腰をそこで止め、どうしてやれば落ち着いて進めることができるだろうかと考える。このまま過ごすには、お互い耐えづらい痛みだ。
 ────あ、そういえばさっき胸触ってた時はすごく気持ちよさそうだったさ……ちょっとそっちに意識向けさせてみた方がいいんかな……?
 そっと手を伸ばし、胸のふたつの飾りに触れた。
「あっ」
 案の定、途端に声が甘いものに変わる。ふたつの突起を捻り上げ、指の腹で捏ね回す。神田がのけぞって、喉のラインが浮き彫りになった。
「っア、あ……ラビ、や…も、そんな、に…す……んな、ぁ」
 握り締めていた神田の手が緩む。やめさせたいのか肩に添えられる手では、頼りなくてラビの愛撫を止めることなどできやしない。
「あっ、あ、ふぁっ……あ!」
 片方を口に含み、空いた片手で、萎えていた神田を包み込んだ。快楽を同時に与えられ、彼はいやだと首を振る。それでもラビが愛撫をやめる様子は当然なく、手で、指で、口唇と舌で、翻弄される。
「あ……ん」
 神田の身体から、力が抜けていく。従順に快楽を追って、痛みは意識から消えていた。
 ────今なら入る、かな……ゆっくりするより、一気にしちゃった方が楽か?
 力の抜けるタイミングを見計らって、ラビは一気に腰を進めた。
「ああぁっ!」
「ユウ、ユウごめん痛い? ここ過ぎれば少し楽になるから、ちょっとだけ我慢して……っ」
 神田の爪が、ラビの肩に食い込む。少し痛みは感じたけれど、神田に比べたら、こんなものなんでもないだろう。
「あっ、ぁあ……ッ」
 先端が入り口を行き過ぎる。そこを通り過ぎてしまえば、後は勢いのみで進めてしまう。奥まで進めて、ラビはふぅと息を吐いた。
「っラビ、ラビ……?」
 喉を詰まらせながら呼びかける声に気づいて顔を上げた。
「ぜ、全部、はいった、の、か?」
 浅い呼吸を繰り返しながら、涙目で見上げてくる愛しいひと。
 ラビは乱れた彼の髪を梳き、包み込むように笑んだ。
「うん、ユウ。今、ユウの中に全部入ったさ……」
「そ、そう、か……ラビ、悪い、肩、肩……傷、つけた……?」
 泣きたくなってしまう。
 きっと自分の方が痛みは激しいはずなのに、傷ついた肩を案じる。こんなのなんでもない、とラビは神田を抱きしめた。
「ユウ、ありがとう……オレ今すっげぇ幸せさあ……」
 その体温と言葉に安心してか、神田から長く息が吐き出される。密着したラビの肩に頬を摺り寄せ、より確かに体温を感じようと背中に腕を回した。
「ラビ、……しばらくこのままで……」
「うん、ユウ」
 ラビもまた、強く神田を抱きしめる。
 鼓動が聞こえる。互いを求める、生きた証しが耳をくすぐった。その音が愛おしいと、かすかに口の端を上げる。
 なんという幸福な気分だろう。
「ラビ……もう、平気、だ」
「……ダイジョブ? 動くさ…」
 身体を少しずらして、神田の脚を押し広げる。それだけでも充分な刺激となり、神田が声を上げてのけぞった。
 少し抜き出してはまた押し込める。小さな動きを、繰り返した。
「っ、あ、あ……っ」
 痛みと快楽が入り混じった感覚が、神田を襲う。ラビの大きさを身体の中で感じて、幸福さえ感じた。
 ────えっと……どこだっけ、確か……ここらへん…。
 ラビは少しでも気持ちよくなるようにと、先ほど指で探った神田のイイところを、今度は入り込んだ自分自身で探す。すぐにでも達してしまいそうな眩暈を感じるが、それをどうにか我慢して、荒い呼吸を繰り返した。
「ああっ……あうっ、あ」
「気持ちいい? ユウ、ユウ……」
「ん、や、そこ……すんなっあ……ア!」
 ラビの先端が、その箇所をつつく。ラビの、熱い肉塊が。
 執拗にそこばかりを突かれて、神田は首を振った。ラビが動くたびに、くちゅくちゅと濡れた音が耳に届く。結合の証しを突きつけられているようで、その音が恥ずかしい。
「んっ、や、いや、ラビ……ラビぃ…っ」
「そんな、可愛い声で…呼ばない、で、ユウ……っ」
 我慢できなくなる、とラビは歯を食いしばる。
 神田の中はとても熱くて、締め付けてくる肉の襞に眩暈がする。引き抜こうとするとそれは引き止めて、押し込むともっと奥へ、と誘う。こんな感覚は想像できなかった。何度も想像の中で彼を抱いてきたけれど、この感覚までは追いきれない。
「ユウ、ユウっ……!」
「あっ、ああっ、や、ラビ、そこ、やあっ……ん」
 ギリギリまで引き抜いて、ずぶずぶと入り込む。濡れた音が淫猥で、欲望を上げさせた。もう神田の快楽を気遣ってやれる余裕さえない。
「あっ……い、やだ、ラビっ……んあっ」
 動きが激しすぎる、と思っても、もうラビの肩に縋るしかできなくて、神田は混じる痛みを耐えながら動きを合わせた。
 腰が揺れる。汗が混じる。信号のように呼ぶ互いの名が、合わせた口唇に吸い込まれた。
「んんっ、んっ……んぅ……っ」
「……っはぁ、っは……あ、ユ…ウ」
 ラビの動きがいっそう激しくなる。感じるところを先端で抉られ、身体が震えた。
 気持ちがいい、と素直に思う。さっき一度達した時よりも、もっと感覚が鋭い気がした。
「ラビっ、ラビ……や、もう……ッ」
「ユウ、ユウ待っ…て、も、も少……し…っ」
 一緒にイこう、と耳元で囁く。ふるふると身体を震わせた神田がしがみついてくる。
 今この瞬間、目に映るものはお互いしかない。
「ふあっ……ああっ、あ、ラ、ビ……ッ」
「……っユウ、ユウ……!」
 ガクガクと身体が揺さぶられる。奥の方までラビを飲み込んだ身体が、快楽にのけぞった。
「あっ、や、……っも、無、理だ……あぁッ……」
「ん、……っは、ユ、ウ……一緒、に…」
「あっ、あ、やッ……あああぁぁあ…────ッ……!!」
「っく…………う……ッ」
 限界に達して、快楽を解放する。神田の肉に締め付けられて、耐え切れずにラビも我慢していたものを手放した。
 ふたつの荒々しい呼吸が部屋に響く。それを気にする余裕は当然なかったが、相手の汗と鼓動が、自分の独りよがりではないことを教えてくれた。
 呼吸が落ち着いてくるにつれ、自分たちの置かれている状況を認識できてくる。
 ラビは神田の中から己を引き抜いて、身体を震わせた神田の髪を撫でた。
「ユウ……」
「ラ、ビ……ちゃんと、できた、の、か……?」
 涙に濡れた瞳が見上げてくる。愛しさがこみ上げた。
「うん……うん、ユウ……綺麗だったさ」
 想像以上だった、と続けるラビに安心して、そうかと息を吐く。
 やっと、心も身体もひとつになれたんだ、と微笑む。嬉しくて泣きそうになった。
「ありがとうユウ。……愛してる」
 初めて放たれた、【愛してる】。
 このひとに出逢うまで、こんな気持ちは知らなかった。こんなにひとを愛しいと思う気持ちなんて、知らなかった。
「ラビ……こんな風になるなんて、思わなかった……」
 自分たちがこんな風になるなんて、出逢った時には考えたこともなかった。自分がこのひとを愛するようになるなんて、考えたこともなかった。
「ユウ、今日は隣で眠らせて」
 あまり間を置かずにこくりと頷く。
 好きで、好きで、しょうがない。
 小さくキスをして、互いに笑い合った。
 このひとを、これからも愛していこう。