せめてこの口づけを

2006/05/28



   本当にもう、どれくらいだろう。
 数歩先に佇むその人を、この目で間近に見るのは。
「久しぶり。…元気だったさ?」
「ああ…」
 口唇から漏れる言葉がぎこちない。僅かに震えたような声は、相手に伝わってしまっているだろうか。
 触れることが恐ろしい。
 触れたいのに恐ろしい。
 離れていた時間があまりにも長くて、持ち上げた腕が再び下がる。
「怪我、しなかった?」
「別に……してねぇ」
 相手から接触を切り出してくれないだろうか。自分からではとてもじゃないが勇気がない。
 触れたいのに。触れたくて触れたくて、しょうがないのに。



  壊れてしまいそうで────恐ろしい。



「……っ…」
 最初に沈黙を破ったのは、ラビの方だった。
 ユウの手を掴み引き寄せ、勢いで抱きしめる。目を見開いたユウが、ラビの体温を認識して目蓋を落とすのに、大した時間はかからなかったけれど。
「逢いたかった……触りたくて仕方なかったさ……」
「…ラビ……」
 強い力で抱きしめられて、自分もせめて返してやろうと思うのに、触れたい想いが勝ちすぎて、逆に腕が上がらない。
「触りたくて…しかたなかったさ……」
 繰り返される呟きにようやっと腕を上げ、背に回す。
 言葉なんて出てこなかった。喉が詰まって、そんなもの出てこなかった。
 この抱擁だけが、ふたり唯一の真実。
 言葉で確かめるより先に、体温で確かめる。
「ユウ、あったかい…」
 お互いに、頬を摺り寄せる。体温と、慣れたにおいと、耳に響く声。
「ラビ……」
 ここが唯一安息の、場所。
 それを告げるべきか、それとももうすでに知れてしまっているか。こんなに身体を近くしていても、心までを近くすることはできるだろうか。
 そんなこと、どうすればいいのかお互いがわからない。
「ユウ、キスをしても?」
「…いちいち訊くな。それを許してねぇヤツになんか、させやしねぇ」
「ありがとう」
 せめて、せめてこの口づけをあなたに。



 ああ、逢いたくて、仕方がなかったよ。