Snow Kiss

2006/12/26



「雪、降ってきたぞ」
 ユウの声に空を見上げると、ふわふわ白いものが落ちてきてる。思わずうわぁ、と声を上げた。
「雪、ユウ、雪さ!」
 大歓迎して、空に両腕を伸ばす。
「……だからそう言ってんだろ、馬鹿」
 や、でも何か、嬉しくならん? 今年初めての雪さ。まあ少なくとも、オレが見た限りでは。
 今年の初めてを、大好きなユウと一緒に見れるなんて。超ラッキー。
 ユウに付き合って稽古の途中、一息入れたとこだったけど、なんかもうこのまま中断されてしまいそうだ。
「どうりで冷えると思ったら……」
「ユウ、戻る? このままじゃ風邪引くさ」
 汗だってかいてるし、絶対マズイ。
「少ししたら止むかも知れねぇ。勝ち逃げなんかさせねぇからな」
 いやいやそんな保証はどこにもないさー。まったくユウは修行の虫なんだから。引っ張って連れて行こうとしたけど、ユウは聞かなかった。
 仕方ないなと、雪をしのげる木の下で、少しだけ雨宿り。いや違った、雪宿り?
「ユウ、これ巻いてな。少しは温かいさ?」
 マフラーを外して、ユウの首に巻く。お前が寒いだろ、と眉を寄せたユウに平気さ、と笑ってみせた。
「……お前の匂いがする」
 うわ、なに可愛いことしてんのこの人。巻いたマフラーに顔埋めるなんてそんな、口許が隠れて可愛いとしか言いようがないんですけれど。
「ユウ、あげよっかそれ。それしてれば任務で離れてる間も寂しくないさ」
「バッ……寂しくなんかねェよ!!」
 わぁ顔真っ赤。図星指されたってことでいいんだろうか? オレは寂しいけどな、離れてる間。
 ユウに逢いたくって無線ゴーレム取り出してみるけど繋がらなくって肩を落としたことなんか、もう何度あっただろう。
「少し大粒になってきたな……止まないか、これは」
「積もるかもね。雪だるま作れるかな」
 雨とか暴風とか、そんな日は電波状況が悪くなって、もっと繋がらない。今日は一緒にいられて良かった。
「お前、雪好きなのか」
「え? うん、なんかワクワクする感じ。ユウは嫌いなんさ?」
「嫌いだ」
 ユウは好き嫌いがいつもハッキリしてる。本能的なものだったり感情的なものだったり、様々だけれど。今回のは、感情の部分かな。
「音が何もしないから、嫌いだ」
 ユウはそう言って、降ってくる雪を見上げる。憎らしげに、じゃない。……寂しそう。
 そういう顔、あんまり見たくねぇんだけどな。なんか、どっか行っちゃいそうさ。
 行かないで、と口にできずに、ユウと名前だけ呼んだ。
「何の断りもなく突然やってきて視界を覆って、……薄情にもすぐに消えていきやがる」
 音のある雨の方がまだどれだけかマシだ、とユウは続ける。
 手のひらに乗せても、体温ですぐに溶けていってしまう冬の使者。知らないうちに視界に入り込んで、時が立てば消えていってしまう。余韻を何も残さずに。
 そう思ったら、確かに寂しいな、とオレも降ってくる雪を見上げた。


「ラビ。そうやってお前も、いつかいなくなっちまうんだろ?」


「────」
 雪を見上げたまま、ユウの口から吐き出された言葉に目を瞠って、ユウを振り向いた。オレの行動を追うようにユウもオレを振り向いて、視線が絡む。
「ユ……」
 そんなことを言わないでくれ。オレはここにいる。
「俺が、お前の進もうとしてる道を知らねぇとでも思ってたのか」
「ユウ、オレは」


 突然に 視界に入り込んで いつか 薄情にも    消えていってしまう


 口唇が震えた。止まってくれ、ユウの名を呼びたいんだ。
 視界が涙で歪んでく。やめてくれ、ユウの顔を見ていたいんだ。


「責めてるんじゃない。ただせめて、その時は別れの言葉くらい、言わせろよ」
 覚悟はしているから、と続けるユウを、抱きしめるほかにどうしようもなくて、震える腕で強く抱いた。
 オレはここにいる、とせめて証明したくて。
 だけど口にすることができず、喉が詰まる。
「…っユウ、オレお前を愛してるんさ……!!」
「何度も聞いた」
 足りない。全然足りない。何もかも全部投げ出したいくらい、愛してる。
 そんなことできっこないってわかってるけど、そう思ってるのは本当さ。
「ユウ、オレ雪じゃないよ。温かいっしょ?」
 ねぇ、心臓の鼓動だって、きっと耳を寄せれば聞こえるはずさ。オレは何も言わない雪じゃない。ユウを愛してる、生きてる人間だ。
「……ああ、温かいな」
 震えた声で、ユウが泣いてるのが分かる。身体を離して、目尻に口づける。ユウも、同じように返してくれた。
 口唇に口づける寸前、口唇と口唇の間に、音もなく雪が入り込む。雪よりは温かい口唇でそれを溶かして、そのまま深く口づけた。



「ラビ、やっぱりこのマフラー俺にくれ」
 手を繋いで部屋に戻る途中、積もり始めた雪を踏みながらユウが呟く。
「うん、いいよ。温かい?」
 できることならずっとオレの腕で温めていてあげたいけれど。ユウが微笑ってくれたから、それでいいと思った。
「……お前の匂いがする」
 ユウが強く手を握ってくれて、愛しさに駆られる。
 それを少しでも伝えたくて、俺も強く手を握り返した。