空と白い吐息と
2004/12/28
空を見上げた。
寒い青だった。
寂しくて痛くて切なくて、時おり軋むように心臓が鳴きわめく。
白い息が、溶けて空に吸い込まれていった────
「何、見てるんだ」
後ろから聞こえた声に、ラビは揺らす視線で応えた。
「んー、空?」
緩やかな黒髪と歌うような声が、寒さの中では心地いい。ラビはくすぐったそうに笑う。
「…楽しいのか?」
上を向く顎につられ、神田の顎も上へのラインを辿る。
ビロードのような空から、何億光年も先の細やかな光が目に届く。
「楽しくはないケド。似てると思ってサ、オマエに」
「ワケわかんねェ」
「そ? だって、超キレーじゃん」
あの冷たさとか色合いとかも、似てると言ってラビは笑う。
「届かないんだなぁ、どーやっても。あの雲なんか届きそーなトコに見えんのにさ」
暗い空に浮かんだひと波の純白。伸ばしたラビの手に覆われ、酷く頼りなさを思い起こさせた。
不意に手を伸ばしても、届くことなく遠のいていく。
「こんなに近くにいんのに、届かないんだなぁ……ユウに」
隣りにいてくれる。これほど嬉しいことはない。
だけどその距離は近いようでとても遠く、儚く散ってゆく。
ラビは神田の髪をツイと引っ張り口づける。緩やかに、笑みながら。
「…オマエのそのカオ、気に食わねェ」
「…そ? 俺はユウのカオならどんなんでも好きだけど」
神田はチッと舌を打つ。
戦友の、だれかれ構わず振りまく笑顔。誰を彼をも撥ね退ける、当たり障りのないバリア。
どこまで本気か知れたもんじゃない。
「オマエが嫌いだ」
「俺はユウが好きだよ」
口唇が合わさる。
「やめろ」
「ヤダもん」
口唇が血の味になる。
こんなに近くにいるのに届かなくて、こんなに傍にいるのに触れても脆い。
「どんだけキスしたら、俺とユウの間の壁、消えんのかな」
「…知らねェよ、そんなもの」
吐息が感じられるほどの距離で、神田はラビを拒絶する。
その言葉に、ラビは悔しそうに笑った。
「ほら。届かねェ…なあ…」
白い吐息も、遠い空に奪い去られて────