すべてはひとつのために

2011/02/28

 ビィ……ンと弦が鳴る。物珍しさからか、アルトは震えるそのラインをじぃっと眺めていた。
「なぁに、アルト。そんなに珍しいか?」
 ミハエル・ブランはその熱い視線に気がついて苦笑い。できればそんな視線は自分自身に向けてほしいと。
「え、あ、うん、初めて見たから……チューニングっていうのか? それ」
「まーね」
「お前がギター弾けるなんて、初めて知った……」
 結構長く一緒にいると思ってたのになとアルトは苦笑する。弦をはじく指を目で追って、器用だなあと見とれてしまった。
「最近は全然弾いてなかったけどな。ま、女の子が喜びそうなことは一通りできるぜ」
「ああそうかよ」
 いつだってそうだな、とアルトはそっぽを向いてしまう。
 そんなことしなくても女なんかすぐに寄ってくるだろうにとぶつくさ言いながら、最後のパーツを手に取った。
「わ」
 腕を引かれて、ミハエルの胸に背中がぶつかる。
 手に取ったヘッドドレスが、落ちてトサリと音を立てた。
「ミシェル」
「ねえ、妬いた?」
 咎めるように名を呼んでやっても、耳元で囁いてくる声は憎たらしいほど色を含んでいる。目の前の大きな鏡には、見慣れないお互いの姿があった。
「……別に……妬いてねーし」
「じゃあ、惚れた? さっき見とれてたよな、アルト」
「それは違う」
「なんでこっちは即答するん……」
「惚れ直した、が正しいだろ」
 遮って、告げてやる。
 本当は見慣れないその格好にも胸が鳴っている。
 こんな時に不謹慎だとは思いつつも、止められないのだ。学園の制服でも、パイロットスーツでも、隊服でもない、そのコスチューム。ハネさせた髪の毛。熱気バサラの衣装をアレンジしたものだと、彼らを知っている者が見ればすぐに分かるだろう。
 アルトも知らないわけではなかったが、特別に興味があるわけではない。ミハエルだから、惹かれるのだ。
「……ったく、アルトはすぐそうやって俺の気持ち全部持ってくんだからな」
 長いため息のあとにそう呟かれて、アルトは笑った。
 お前の方こそ仕種ひとつで気持ち全部持って行くくせにと、口には出さないで。
「しかしアルトのこれ、すごいな……俺こういうのあんまり興味なかったんだけど」
 そうだろうなと、アルトは笑う。ミハエルは落ちたヘッドドレスを拾い上げ、アルトの頭に乗せた。
「すごい新鮮。こんな時に不謹慎だとは思うけど、…………似合うよ」
 どさくさに紛れて口唇に触れたけれど、怒られる気配はなくて、愛しそうに鼻先をすりあわせる。
「ホント、可愛い」
 リボンとトーションレースいっぱいのワンピースは、普段アルトが着ている物ではない。アルトが女形だったことを鑑みても、洋装というのはそれこそ物珍しくて見入ってしまう。
「どうせなら、俺もこういう服装で合わせたかったな」
「お前は何着ても似合うからな」
「こっちの台詞」
 アルトがこんな格好をしたのにはちゃんと理由がある。久々に女物を着用するのはなんだかくすぐったかったけれど、これはあくまで作戦の内だ。
 すべては、戦いの終結のために。
「作戦、全部頭に入ってるか?」
「ああ、シェリルを脱出させたら、すぐにクウォーターへ向かうよ」
「気をつけろよ、アルト」
 分かってる、と指を絡める。
 愛してる、と目を閉じる。
 そっと口唇を触れ合わせて、笑いあった。
「行くか、アルト」
「ああ、行こうミシェル」
 すべては、戦いの終結のために――。