また今日も諦められず-Michael-

2008/05/16


 なんでアルトなんだろう。
 本人が隣を歩いてるっていうのに、オレは大きくため息を吐いた。



 そうだよなんでアルトなんだ。
 アルトなんか、こんな見てくれしてても男だし言葉遣いも乱暴だし、テストん時なんかめちゃくちゃ敵意むき出しで突っかかってくるし。
 なんでこんなヤツ、好きになっちゃったんだろうな。


 オレだって悩んだんだ。悩んだなんてもんじゃない。
 オレは女の子の方がいいし、ゴージャスなお姉さんなんか、たまんないんだよホント。今までもそうだったから周りも当然そういう見方と付き合い方をしてくるし、このオレが男を好きになったなんて、いまだに信じられねー。
 でもアルトは……クラスのヤツが諦めちまった【首席】を本気で狙ってくるし、競う相手ができたのは嬉しかった。
 芸能科からの転科が来るって聞いて、どんなヤツかと思ってたら噂に違わぬ美人で言葉を失くした。
 それでも顔に似合わず激情家で、からかうと面白かったんだ。
 それを楽しんでいるだけだと思っていたのに。


 難しいコークスクリューを初めて成功させたあの日、嬉しそうに駆け寄ってきたこいつを見た時、心臓が鳴った。



 それから、どんな女の子といてもつまらなくて、デート中だって上の空。
 歯の浮くようなセリフがクセで出てしまうけれど、目の前にいるのがアルトだったらなんて考えて、何度か苦笑いをしたこともある。
 女の子は口説くのが礼儀だなんて言ってるけど、真実の言葉を向けた女の子なんていただろうか?
 デートしているところをアルトに見られて、でもアルトは声さえもかけてくれず、次の日のテストはいつもより点数が落ちた。
 落ちた点数よりアルトに見られたことの方がショックで、その時やっと認められたんだ。


 オレはアルトが好きなんだ。


 だけど女好きで通っているオレが、男を好きになっただなんて言えやしない。
 この世間知らずのお姫様を好きなんだと自覚した途端、ため息が増えてしまったけれど。
 オレが女の子と付き合っても別れても、気にもしてくれないし。オレがこんなに構ってんのに気づいてもくれないし。オレの小さな努力無視しやがって。
 オレはこいつのこと姫って呼ぶけど、別に女の子じゃなくてもいいって思う。でも付き合いたいのかって言われたら、……どうだろう、そうなのかな?
 こうしてときどき街に買物来るくらいできるし、同性じゃ堂々と恋人デートできるわけでもないし。
 ただ、こいつが少しだけでもオレを気にかけてくれるんなら、それでいいなんて思う。
 ……ハ、どうよ。このオレがこんな純情な恋してるなんて。
 アルトのせいだ。
 もうやめたい。やめてやる。こんな鈍感なヤツ好きになったって仕方ないじゃないか。
 今日だって、デートなんじゃないかなんて無神経に聞いてきやがって。今日も明日も明後日も、そんな予定入ってねーよ!
 アルト、お前なんかな、


「ミハエル、お前こっちの方が似合う」


 耳に入ったアルトの声にハッと顔を上げる。
 ああそうだネックレス選んでたんだっけ。特に入用でもないんだが、立ち寄った店に並べてあったから、何の気なしに見てたんだ。


「どうしたんだよ、上の空だな。てめぇの方こそ悩んでんじゃねーのか」
「別にないぜ悩みなんて。強いて言えば、明日何を着て行こうかってとこかな」
 どうしたらお前がオレの気持ちに気づいてくれるのかなんてそんな、思ってねぇ、し。
 あ、バカかオレ。もうやめるってついさっき決めたばっかじゃねぇか。
「ふーん、別にいいけど。だからお前はゴールドよりシルバーの方が似合うって言ってんだろ、こっちにしろよ」
 ……姫? もしかして真剣に選んでくれてたのか?
 いやいやでもな、今さらそんな可愛いとこ見せても無駄だよ。もうやめるんだ。
「こういうのって、普通彼女とかと……選んだりするんじゃねーの?」
「人それぞれだろ。姫はそういうことしないのか?」
「女と? そういうのめんどくさい」
「へぇそう」
 お前なんか。
 お前なんか。



「お前といる方が、楽だからな」



 ……ああもう、大好きだよこのやろう。