ALWAYS

2011/01/09


 アルトは、眠ろうと思ってベッドに入った。
 はずだった。
 日々の訓練で疲れているはずなのに、なかなか眠りが訪れない。肉体は休息を求めているのに、意識だけがはっきりとしてしまっている。
 はあーとため息をひとつついて、仰向けに寝転がって正面に視線を移した。
 この体勢で正面とはつまり、天井、もっと詳細に言うのなら、二段ベッドの上段底だ。
 耳を澄ましてみれば、常温システムの機械音しか聞こえてこない。
 それでも、ルームメイトで上段の主はそこにいるはずだ。
 勤務から、アルトより少し遅れて帰ってきたのは知っている。おやすみのキスを頬にしてくれたのも知っている。寝たフリが気づかれていたのも知っている。
 それでもミハエル・ブランはそれ以上なにもせずに自分のベッドへ上がっていったのだ。
 いたずらでも、イジワルでもない。
 つながるだけが大切なことじゃないと、お互い知っているからだ。頬にキスをして、髪をなでて、おやすみと囁いてそれで終わり。
 ただそれだけで、穏やかに眠れるのだ。
 だけど今日は、その穏やかな眠りが訪れない。
 どうしてだろう。特に彼の熱を欲しがっているわけでもないのに、なんだか心が宙ぶらりん。
 今日は何か特別変わったことでもあったかなあとアルトは考える。
 朝起きて学校に行って授業を受けて、EXギアで飛んで、帰ってきてS.M.Sの訓練をこなして、シャワーをして部屋に戻ってきた。
 ミハエルが、新しく入ったコフィンでのテストシミュレーションをやらされていたこと以外は、いつもとなんら変わりない。
 ミハエルが学校で女生徒から弁当を受け取っていたのもいつものことだし、アルトがシェリルのわがままに振り回されたのもいつものことだ。
 そのたびにミハエルになだめすかされて、ほだされてバツが悪くなって、ぷいとそっぽを向くのがいつもの動作。  今日だって例に漏れずそうしたはず。
 いつもと変わらない日常だったのに、どうしていつもと同じ眠りが訪れないんだろう。
 アルトは仕方なくむくりと起き上がり、髪を梳いた。
 そうして、あ、と思い当たる。

 今日はしていない。

 そうか、今日はしていないのだ。
 アルトはがくりとうなだれる。ほんのささいなことのようにも思うけれど、たったそれだけで安眠できないなんて、いったいどれだけミハエルを好いているのだろう。
 もぞもぞとベッドから這いだして、カーテンの引かれた上段のベッドを見上げる。少しだけ聞こえてくる寝息が、こそばゆかった。
 どうしよう、とアルトは困ったように片眉を上げる。寝息だけ聞いて満足しておくべきか、それとも欲するところを行うべきか。
 自分たち以外誰もいない部屋で、誰も見てないよなときょろきょろ見回した。
 カーテンをそっと引っ張る。姿勢良く眠っているミハエルを見つけて、胸が鳴った。
 よいしょ、とベッドに足をかけて、起きないようにそっとミハエルの足下に乗り上げる。
 そーっと、そぉっと、身体の方へと回り込んで移動して、隙間に体を寄せた。

「ん……ひめ……?」

 起こさないように、というのはこの狭いベッドではかなり無理があっただろうか。ミハエルの目蓋が持ち上がって、眠たそうな視線とぶつかる。

「どうしたんだアルト…したいの?」

 身体を脇へと寄せながら、ミハエルは笑う。空けてくれた隣に寝ころんで、アルトはふるふると首を振った。

「お前がしたいんならそれでもいいけど……俺、今日お前におやすみしてなかったなって思って」

 伸び上がって、頬へキスを落とす。
 ただ、それだけ。
 それをしていなかったから、日常ではなかったのだ。
 ミハエルにおやすみをしてもらって、ミハエルにおやすみをして、それから眠る。それがアルトにとっての日常。

「これしないと……眠れない」

 口づけた頬をそっとなぞるアルトに、ミハエルは幸福そうに笑う。

「おいでアルト、腕枕してあげる」
「ん」

 温かな腕に包まれて、愛しいひとの心音を聞きながら穏やかな眠りにつく。
 いつもと何も変わりない、それがふたりの日常だった。