コズミックパワー

2010/11/28


 自分の声が、何かのメディアを通して聞こえてくるというのは、やっぱり妙な感じがして慣れない。
 プレーヤーの操作権を奪われてしまっては、リピートされるそれにできることと言えば、耳をふさぐことくらいしかなかった。
「アールトー、いつまでそうしてんだよ。もうすぐこれ店頭に並ぶんだぞ?」
 そんな様子を眺め、操作権を奪った張本人はニヤニヤと口の端を上げて笑う。
「う、うるさいうるさいっ、お前もいつまでそこリピートしてんだよ、いい加減に飽きろ!」
 突っ伏していた顔をバッと上げて、涙目で抗議してみた。それでも、ミハエルは気にもしていないようだ。
 クリスマスをコンセプトにして、もうすぐ一つの音源がリリースされる。それはミニアルバムの容量だが、予約はもう殺到しているらしい。
 歌姫たちのファンはもちろん、ミハエルやアルト、クランやオペ娘など、人気キャストの歌声もボーナストラックのように収録されているためか、ワンフレーズだけでも聴きたい!と店頭・WEBで我先にと予約するのだそうだ。
「ヘッドフォンするなって言ったの姫だろ。なにがそんなにヤなの」
「俺の知らないとこでお前が俺の声聞いてんのがイヤなんだよ! もういいから止めろって!」
 必死になって抗議してくるアルトに観念して、ミハエルは仕方なくプレーヤーを停止した。
 シュゥンと消えていった音にアルトはホッとして、その音源を取り上げる。
「もー聞くの禁止」
「え、それはヒドくないか?」
「ヒドくない。だいたい、何で俺らが歌うハメになったんだよ」
 横暴だと取り返そうとするミハエルから逃れ、言ってみせる。下手に刺激しないほうがいいかなとため息をついて、仕方ないだろと言ってやった。
「ドラマがヒットして、アニメーション映画の前編も成功して、もうすぐ後編だろ? そんな中でプロモ兼ねてクリスマス仕様の音源出そうっていう企画が、通っちまったんだから」
 そもそも役者ではない自分たちが主役級を演じたこと自体がおかしいのだが、視聴者達にはすんなり受け入れられてしまった。
 ランカ・リー、シェリル・ノームという今や銀河級の歌姫を売り出す為に企画された、フロンティアを舞台とする歌と戦争と恋を描いたドラマ。
 五夜連続で放映されたそれは前評判からして半端なかったのだが、一夜目から高視聴率をはじき出した。
 おかげで歌姫たちは銀河の知るところとなり、成功した企画は幅を広げ、コミカライズにノベライズ、果てはアニメーション映画にまでなってしまっている。
 カラオケブームの到来と軍への入隊志願者が増えたことは、フロンティアの景気を盛り上げ活気づけていた。
「お前がわがまま言うから、フレーズ減らしてもらったのに」
「だっ、だって恥ずかしいだろ!」
「そりゃ分かるけどね。俺たちは軍人なんだし、まさかこんなことまでやるなんて思わなかったよ。けど、アルトいい声してると思うけど。なーちび」
 なあん、と、いつだか拾った飼い猫はミハエルに撫でてもらって上機嫌。そんなにゃんこに嫉妬して、アルトはミハエルの隣に座り直した。
「ミシェルは……そんなの聴かなくてもいいだろ」
 音源を取り上げられて少しだけ不満がっていたミハエルに、思わせぶりな言葉。ミハエルは愛描を抱き上げながら、それに目を瞠った。
「それにあれは、俺じゃない、し……」
 真っ赤になってうつむくアルトに、意図を理解してミハエルは口の端をあげた。
「そうだな、本物の早乙女アルトは、いつだって俺の腕の中でイイ声で歌ってくれてるもんな」
 いやあ贅沢者だなあと、抱き寄せる。アルトはカァッと更に頬を染めて、そういう意味じゃない!とミハエルをグイと押しやる。
「えー、違うのー?」
「う…」
 そういう意味じゃないけどそういう意味で、ミハエルには独り占めしてほしい。そして、ミハエルをそういう意味で独り占めだってしたい。
「アールト」
「な、なんだよ」
「大丈夫だって、ほら、俺はさ、たとえこの世界が果ててもお前に恋するからさ」
 歌のフレーズを真似て囁くミハエルに、じゃあ自分もそうする、と頬に口づける。
 お互いの視線が重なって、手のひらが重なって、口唇が重なる。きっとこの世界が果てても、また別の銀河で出逢うだろう。
 そして間違いなく、恋に落ちるのだ。
 何の根拠もない、そんな愛のパワー。