冷たいキス

2011/08/21


「はいアルト。冷たいから気をつけろよ」
「ん、サンキュ」

 アルトはミハエルから渡された器を嬉しそうに受け取って、その冷たさに指をなじませた。

「んーうまいー」

 削られて白くなった氷が、蜜を受けて色を変える。着色料がふんだんに使われているそれは、世辞にも体にいいとは言えないが、暑い夏には定番のデザート。
 スプーンですくえばその氷はしゃくり、と音を立て、それがまた耳に心地よい。

「ほんっとうまそうに食うよな。見てるこっちの方が幸せになれるよ」
「だって久しぶりだし、かき氷なんか」

 冷たいものが美味しい季節が訪れると、カフェやレストラン、スウィーツ専門店ではこぞって氷の商品が売り出され、たちまち目玉商品となる。
 そういったところで食べるのもいいんだけど、ふたりっきりで過ごしたいというアルトの可愛いお願いで、ふと目に止まった家庭用かき氷機を買ってしまったのは、衝動的なものだったと思う。

「ミシェル、次はいちごみるくがいい」
「さっきもいちごだっただろ」
「ミルクかけたら違うだろ。氷解けちまうから早く作れっ」

 はいはいと若干呆れつつも、ミハエルは可愛い恋人のためにかき氷を作る。しょりしょりと削られていく氷は、視覚効果も手伝って涼しさが増す。
 暑い夏でも、こんな風に過ごすのならばいいものだと、二杯目のかき氷をほおばるアルトを見下ろした。

「ミシェルの、それレモンか?」
「これ? そう、レモン。見た目すっぱそうだけど、全然だな。俺こういうのあんまり食べないし、新鮮だけど」

 ミハエルの手には、黄色く染まったかき氷。アルトのとは違ってあんまり減っておらず、水として溜まりかけている。

「レモンも食べてみたい……」

 物欲しそうに瞬くアルト。いくら暑いからといって冷たいものを食べ過ぎるのはよくない。だめだと言いかけたミハエルだが、期待のこもった目で見上げてくるアルトの視線とぶつかってしまう。
 斜め下30度、この角度がいちばん好きだ。

「仕方ないな、一口だけだぞ」

 スプーンですくって、アルトの口へと運んでやる。満面の笑顔に、例によって撃墜された。

「レモンもうまいー」
「まったく、欲張りなお姫様だ」

 これ以上食べさせないように、ミハエルは残った氷をかきこんだ。

「欲張りだよ、俺。知ってると思ってたけど」
「え?」

 小さな声に振り向くと、心なしか染まった頬で見上げてくるアルト。

「ミシェルにいっぱい愛してもらってるけど、まだ足りないって思う。いつでもミシェルのこと欲しい。他の人なんか見てる暇ないほど俺のこと見ててほしい。欲張りすぎて嫌われないかって、いつも思ってるんだ」
「そんなの、俺だって一緒なのに。でもアルトならそういう俺も許してくれるって都合のいいこと思ってるから、めいっぱい甘えてるよ」
「俺も同じでいい? 甘えてていいのか?」

 いいよと笑うと、ほっとした後に瞬いて、視線が右に揺れる。戻ってきた視線は心なしか潤んでいて、ああこれはキスをしたいときの顔だと気づいて微笑む。頬を包んで、ちゅっと口唇をついばんだ。

「ふふっ」
「なに笑ってんだよミシェル」
「姫、口唇冷たい」
「わ」

 ぺろりと舌で舐めると、アルトも面白そうに笑う。
 かき氷を食べっぱなしだったせいで冷えた口唇が、ミハエルの頬を、顎を、耳たぶを、鼻先を通っていく。

「ひめー冷たいってば」
「だってあんなキスじゃ足りない。俺欲張りだって言っただろ」
「ん、じゃあもっかい」

 ん、と口唇を突き出しあって、触れ合う。氷の蜜のせいかいつもより甘いキスにふたりで酔いしれて、冷たいならば温めあえばいいと、背中に腕を回した。