誰にも言えない

2009/09/29


 ため息が多くなりましたね、と一つ年下の後輩に言われ、アルトもミハエルも、またひとつため息をついた。
「な、何か悩み事ですか? 僕が力になれるものなら、お手伝いしますけど」
 ああー、と、ふたりまたしてもため息とも返事ともつかない声を返す。ルカの気持ちはありがたいのだが、いかんせん問題が問題すぎる。
「なんでもないんだ、ルカ。悩みっちゃあ悩みなんだけど、こればっかりは誰かに相談するわけにもいかなくてさ」
 ミハエルはため息をつきたい衝動を抑えて、笑う。何でもないように手のひらを振ってみせ、それ以上の詮索を止めさせる。あまり深く突っ込んでこられても困りもの。うっかり口を滑らせでもしたら、世界が変わってしまう。
「そうですかー? じゃあ、あんまり無理しないで、本当にしんどくなったら言ってくださいね」
 悩みって話すだけでも大分気が楽になるんですよ、と言ってくれたルカと、宿舎の前で別れる。いい後輩だよなあ、とふたりで呟き、せっかくの気持ちを無下にしてしまったことに気分が落ち込んだ。
「でも、なあ」
「まさか、なあ」
 実は両想いだったんです、なんて。
 言えるわけもない。
 そもそも、相手のことを好いていることさえ、自分自身つい先日まで気がついていなかったのに。
 ふとした瞬間に視線が絡んで、肩が触れ合って、身体を重ねてしまって。
 忘れようか、とは言ったけれど、きっと相手は自分のことが好きで好きで仕方がないんだなと決めつけて、そうならそうと言ってくればいいのにと相手のせいにばかりして、自分自身の恋に気がついてもいなかった。
「言えない、よなあ」
「言えねえ、だろう」
 どちらも男。どちらも美形。学園内には数え切れないほどの『ファン』がいるだろう。選ぼうと思えばそれこそ選り取り見取り!にも関わらず、選んでしまったのは親友と言える男だった。
「まさかこの俺が、お前に墜ちるなんて。女の子たちのアドレス、全部消したんだぜ」
「な、なんだよ俺だってな、まさかお前のこと好きになってるなんて思わなかったんだからな」
「嫌ならやめろよ」
「俺のセリフだろ」
 フロンティアでは、同姓婚はまだ認められていない。もちろんだからといって他の船団に移ろうなんて考えてもいないし、S.M.Sという居場所だってある。
「どうする、アルト」
「どうすんだよ、ミシェル」
「俺はやめたくないね。お前のことかなり好きみたいだし」
「俺も、今さらお前を知らなかった頃になんて戻れねえよ」
 自分たちの、部屋の前まで来て立ち止まる。開閉ボタンを押そうとしたミハエルの手に自分のものを重ねて、アルトはキョロキョロと廊下を見渡した。よし誰もいない!
「誰にも言えないから、お前が聞け」
「……うん?」
「お前が好きだ、ミシェル」
 聞いてくれる相手はお互いしかいない。この気持ちを全部、さらけ出してしまえるのはこの男のまえでだけだろう。
 ミハエルはボタンを押して部屋の中にアルトを押し込む。うわ、と驚いている隙をついて口唇を塞いでやった。
「俺の気持ちも、お前にしか言えないな」
 好きだ、と囁いたあとにもう一度、深い深いキスをする。
 抱き合って超える夜の中で、お互い以外に誰にも言えない気持ちを、何度も何度も囁きあった。




お題提供:リライト
 背徳の恋で10のお題より「誰にも言えない」