トリックor・・・?

2010/10/24


 最後の希望はアイツだけだ。なんだかんだでアイツに頼らなきゃいけない自分が悔しいけど、仕方ない。
 だいたい、誰だよこんなゲーム考えやがったのは。菓子をもらうかイタズラして勝ち抜き戦なんて、バカバカしい。
 仮装側とそうでない側に男女比なく分けられたのは別にいい。くじで決められた公正なものだ、だから別にそれに対して文句はない。
 菓子をもらえたら仮装でない側に回れて、今度は仮装側に見つからないように逃げ回る。捕まえられたら持っている菓子をやってやり過ごす。
 自分の持っている菓子がなくなってしまったら、イタズラをされるか仮装側になるかしかない。
 菓子の数が多いほど有利になるが、10個以上は持てない。後は隠れてゲームの終わりを待つしかないんだ。
 そう、みんな隠れてやがる。
 菓子を持ってないのであれば、俺だってそうするだろうが、この状況はいただけない。なにせ俺はまだ1度も仮装側でない人間と逢えてないんだ。
 ゲームの終了時に仮装していた者は2週間居残って各所の掃除を言いつけられる罰ゲームがあるせいか、みんな案外必死だ。
 俺だってそれなりに必死だ。2週間も自分の時間が削られるのは絶対に嫌だ。その分フライトする時間がなくなっちまう。
 だからなんとしてでも仮装側を脱したいのに!
 そもそもなんでこの衣装なんだ、動きづらい……! 吸血鬼だか吸血姫だか知らないが、服飾科もこんなとこに力入れんなってんだ…!
 着慣れない物は早く脱いでしまいたい。
 だから、だから最後の頼みの綱だ。

「ミシェル!」

 ガァッと航宙科のロッカー室のドアを開ける。絶対ここにいると思っていた。
 最後の最後まで頼りたくなかった男は、つまらなそうに航空雑誌を膝の上に広げていた。

「ようアルト姫、ご機嫌麗しく?」
「…………最悪だ! バカ!」

 やっと仮装側でない人間に逢えたのはいいけれど、できれば見たくなかった。イタズラと称してネクタイを抜かれたりボタンちぎられたりしてるミシェルなんて。

「なんかさー、お菓子よりイタズラがいいって女の子ばっかでさー」

 困っちゃうよねえと笑う親友を、殴り倒してやりたい気分だった。
 俺の気持ちも知らないで。

 お前が大好きだっていう、俺の気持ちも知らないで!

 やっぱりミシェルのとこになんか来るんじゃなかった……泣きそうだ…。こんな顔見られたくない…!

「姫、お前まだそっち側なのか。ちょっとヤバくない? そろそろゲーム終わる時間だぞ」

 背を向けて出て行こうとした俺の手を掴んで、ミシェルは不思議そうな視線を投げつけてくる。
 そりゃ俺だって早く終わらせたい。終わらせたいけど、誰もいないんだ。
 ミシェル以外には、誰にもいないんだ。

「ミシェルはもう……何も持ってない、だろ……」
「え、俺?」

 俺がミシェルしか見てないからなのか、もしかして本当にこの世界に二人っきりだからなのか。
 俺の気持ちはお前にしか向かっていかないのに、それは一方通行でしかない。

「あー悪い、持ってたお菓子はさっきの女の子でなくなっちまったな」

 ほら、ミシェルが俺にくれるものなんて何もないんだ。

「悪い、邪魔したな……他探してみる」

 そう言ってミシェルから視線を逸らすのに、手を掴まれたままで傍を離れられない。

「なんで……いちばん最初に俺のとこ来なかったんだ、アルト」
「え?」
「俺のとこいちばん最後にしたんだろ。なんで?」

 怒ってる? ミシェルは怒ってるのか? なんで?
 だって目に見えてるじゃないか、お前のとこに菓子もらいにくる女子が多いのは。そんなのかき分けてなんて来れないし、ミシェルにばっかり頼るのも情けないし!

「俺、待ってたんだぞ、お前が来るの」
「待ってたんなら何かよこせよ!」

 言ってから、気づく。
 待ってたって、なんだ? ミシェルが、俺のこと……待ってた?

「だからもう何もないって言って」
「だったらお前をよこせばいいだろ!」

 何もないなら、ミシェルがいい。このあとどんなことになってもいいから、俺だけにミシェルをくれればいいんだ。
 待ってたって言うんなら、くれよ、ミシェル。

「え、……あ…? え、俺!?」
「それに俺は誰にも逢ってないからお前がいちばん最初なんだよ!」

 ミシェルの頬がさっと染まる。それ以上に俺の顔も赤いはずだ。
 お菓子もいらない、2週間ずっとフライトできなくてもいい、今ほしいのはたったひとつ。

「…もらって……くれんの?」

 ミシェル・ブランだけ。
 頷いたすぐあとに、両腕で抱きしめられる。その温かさに、トリックじゃないんだなあとゆっくり息を吐いた。
 恋人同士になれたんだ。ミシェルと恋人同士になれたんだ! 親友っていういちばんやっかいなポジションから脱せた!
 これからはきっと、いちばん傍で笑っていられる。いつか夢に見た、幸せな時間だ。

「なあアルト姫、もうすぐゲームが終わるけど」
「うん?」

 唯一誤算だったのは、

「脱いじゃえば分かんなくなるって、気づいてた?」
「え? うわぁっ」

 ミシェルの手が、異様に早かったことだけだ。