あと少し 〜言葉だけじゃ足りないらしく〜

2014/05/22



 ギノは、言葉にして伝えるということが苦手らしい。それは希薄な人間関係だったことが理由として挙げられるのかもしれないが、多分に照れもあるんだと思う。

「なあ、ギノは俺のこと好きか?」

 朝起きていちばんはじめに視界に入る恋人へ、何度もしてきた質問を着替えたあとに今日も忘れずに行った。もう、日課みたいなものだ。

「……そこそこ」
「ぷはっ、なんだそこそこって」

 答えはいつも違うようでいて、少しも変わらない。
 ギノは俺のことが好きで好きでたまらないんだ。
 それは自惚れなんかじゃなくて、全身で感じている。視線の向きにしろ熱さにしろ、ギノは言葉がない分態度で示してくれる。

「じゃあ、俺のどこが好きだ?」
「特別にはない」

 ギノはふいと顔を背けながらも答えてくれた。なああれは自覚があるんだろうか? ここからでも分かるくらい、ほっぺた真っ赤なんだけど。

「昨夜あんなに可愛くしがみついてきてくれたのになー冷たいなぁギノは」
「なっ……バ、バカかお前っ……朝っぱらからする話じゃないだろう!」

 わざとだよ、分かってるだろお前をそうやって振り向かせたかったんだってことくらい。顔を真っ赤にしたギノを見て昨夜のことを思い起こす。
 泣き濡れた目や甘い吐息や俺を煽っているとしか思えない喘ぎ声。昨夜あんなに堪能して満足したと思ったのに、いざ朝を迎えるとぜんぜん足りないんだよな。仕事がなけりゃこのままここで抱いてるぞ。

「じゃあ素直に言葉にしてくれよ。俺を好きかどうか。どんなところが好きなのか。どれくらい? なんでそこが好きなのか?」

 ギノが言葉にする事を苦手に思っているのを知っていて、俺はあえて言葉を求めた。だって不公平じゃないか? 俺はギノに言葉でも伝えているし、態度でだって示している。佐々山にはお前のはダダ漏れ過ぎると言われているくらいだ。

「俺はギノが好きだ。手触りのいい髪もまっすぐな視線も」

 言いながら、ギノの好きなところに触れていく。最初は髪に、そうして目元に、頬を撫でて、

「あとここな。……キスしがいのある口唇、すごく好きだ」

 そっと口唇でそこに触れる。
 キスなんて何度もしてきているのに、いまだに赤くなるギノは、本当に可愛いと思う。でもあんまり可愛くても困るんだよな? ギノに手ぇ出すヤツが増えるだろう。
 佐々山はいらん心配だって言うけれど、そんなの分からないじゃないか。もし俺がギノの彼氏じゃなかったら、手を出すに決まっているからな。

「な……んで狡噛は、その……毎日毎日そう言うんだ? 飽きないのか?」
「飽きるという発想はなかった……ギノはおもしろいこと言うな」

 ギノを好きだと言葉にする行為に飽きるというのは、たぶんギノを好きじゃなくなったときだと思う。あり得ないな。

「お前がイヤなら止めるけど」
「い、いやなわけじゃない! ただ、その……俺は、あまり返してやれないから……」

 否定してくれて良かった。俺がギノを好きだと言うのはもう呼吸をしているのと同じようなことで、止めろと言われたらきっと死ぬしかない。

「たぶん、ちゃんと言った方がお前だって嬉しいんだろうっていうのは分かってるんだ。俺がそうだから、同じだって」

 ギノは自分が今なにを言ったか自覚しているだろうか? 残念ながら俺はギノの言葉を聞きのがしたりはしてやれないからな。
 好きだと言ってくやったら俺が嬉しがると思う、ということは、俺に好きだと言われてギノは嬉しがっているということだ。

「けど、やっぱりどうにも慣れてなくて」

 可愛い。本当に可愛い。気づいてないっぽいところがたまらなく可愛い。

「だったら、イエスとかノーとかそういうのでもいいぞ」

 言葉にする努力をしてくれている。そんないじらしさが愛しい。

「俺はギノのことが好きだ。それは知ってるな?」
「あ、ああ、……イエス?」
「一目惚れだったってことは言ったっけ?」
「はっ? し、知るかそんなの、ノーだ!」
「ギノは俺のこと好き?」
「………………」

 あれ、なんだこの沈黙。ここはイエスって返ってくる予定だったんだが。
 え? あれ? まさか俺、自分で思ってるより好かれてないのか? いやそんなはずない……ないよな?
 どうしようギノが困った顔してる。おかしいなこんなはずじゃなかった。予想外のことに、らしくなく慌てて、沈みかけたそのとき。

「お、お前と同じ、だっ」

 顔を真っ赤に染めながらも、ギノがさっきの質問に答えてくれた。
 俺と同じ。ということはつまり、

「俺だってちゃんと、お前のことすごく好きなんだからな!」

 なかばやけくそで吐き出されたそれだけでも俺を昇天させるのに充分だったのに、さらに幸福が眼前に広がる。
 可愛いな、たまらんくらい可愛いな。

 ギノのキスが届くまであと三センチ、頑張って待っていよう。