チョコより甘い

2013/01/11



最初はただ、押し当てるだけのキスだった。
だがそれは1秒も触れずに離れていく。それでも、口唇の場所を確かめるようなそれを不満に思うことはなかった。
次がくるのを知っているからだ。

「ん……」

予想通り、口唇がもう一度触れてくる。今度は先ほどよりも少し長く、撫でるように当たった。
弾力を楽しむかのように、狡噛の口唇は離れては触れ、触れてはまた離れる。
まるで鳥が餌を啄むかのような触れ合いを、宜野座は口にこそ出さないが好んでいた。


口の端にキスを落とし、今度は反対側の端に。そしてこんもりと盛り上がる山に触れ、ゆっくりと移動する。


「んん……?」

それは確かにいつものやり方だったが、今日はいつもより長いな、と宜野座は感じた。
無論、その行為が嫌なわけではない。大切そうに頬に添えてくれる手のひらも腰を抱いてくれる腕も、いつもと変わりない吐息も……いや、そういえば心なしか吐息に酒のにおいが混じっているようだ。
いつもならもうこのあたりで深いキスに変わるのに、さっき一緒に飲んだ酒が彼を変えているのだろうか。
それとも、自分の方が酒でおかしくなっているのだろうか。
戯れのようなキスが若干焦れったいと感じ始め宜野座はそっと目蓋を持ち上げた。

「……っ」

ら、同じようにそうした狡噛と視線が重なってしまって、照れくさいのとバツが悪いのとで、思わず目を背ける。
そうしたことに気がついて、狡噛はふっと息を吐くように笑って口唇を離してきた。

「いつ焦れるのかと思った」

目を細めて、悪戯好きの子供のように狡噛が笑う。まさかわざとなのかと気がついて宜野座が頬を染めると、それを宥めるように、狡噛の指先が頬を撫でた。

「ギノ、舌」

短く言い放って止める狡噛に、宜野座は舌? と首を傾げる。舌がどうしたのだと目を瞬いたら、促す目的でか狡噛は顎を掴み押し下げてくる。
ああ、と悟るけれども羞恥が先立って、すぐにはできない。

「ギーノ」

責めるように宥めるように名を呼ばれて、宜野座は左右に一度視線を泳がせてから口唇を開く。
その奥からゆっくりと出した赤い舌先が自分の視界にも入ってきて、いたたまれなくて思わず目を閉じた。

「あ……」

少しの間を置いて、同じような温度をした舌先が触れるのを感じ取って、声が漏れる。
口の端を唾液が伝い、舌が強張った。
その緊張をほぐすためか、舌の表面がぴったりと重なり撫でられる。
まったくの逆効果でしかない。
驚いて舌を引っ込めようと思ったのに、それよりも早く察知した狡噛の口唇に捕らわれた。

「んッ……」

そうして一気に奪われる、激しいキス。

「あ、ちょっと待……ん、む、ぐ」

捕らえた舌に歯を立てて、逃がすわけないだろうとでも言いたげに吸い上げてくる狡噛に、宜野座は声を上げた。
音がするほど強く吸われる痛みさえ、体を刺激する。

「んん、あ……ふっ」

強く腰を抱かれて、体の間にも口唇の間にも隙間が無くなってしまう。ドキドキと鳴る心臓を悟られやしないかと、余計に心を刺激した。
ちゅ、ちゅうと食らうように絡められる互いの舌にしびれるような快感が走り、宜野座は思わず狡噛の背中にしがみつく。それが嬉しかったのか、腰を抱く腕に力がこもった。

「ん……ふ、う、っんぁ……」

呼吸をするために離れた口唇は、だけど1秒さえ惜しいと再び重なっていく。
しがみつくスーツが指でしわを作り、衣がこすれる音を立てる。

「う……んん、ンッ…は……狡、噛……」

いい加減に苦しいと背を叩く手で訴えたらようやっと口唇は離れていき、宜野座は呼吸をするために天を仰いだ。
はあ、はあっ、と繰り返される荒い息に、狡噛は満足そうに笑う。

「ギノ。今日のお前、いつもより甘い……」
「なッ……」

そういえばさっきのバーでチョコレートをつまんだ記憶がある。そのせいだとは思うのだが、


「やべえな、クセになりそうだ」


ぺろりと好戦的に口唇を舐める狡噛に、馬鹿、と言う前に体がベッドに沈んでいった――。




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