コミュニケーション

2015/01/14



新しい執行官が配属された。赤い髪をした、少年のように見える男。
よく執行官の適正が出たなと思うほど、彼はおどおどした様子だった。
そもそも、よく本人が執行官であることを選んだものだとさえ思った。執行官の職務は生半可な気持ちで務まるものではない。
ドミネーターを構え、シビュラの判定に従い、自分と同じ潜在犯を執行する。その後ろめたさに押しつぶされてしまわないかと、宜野座は心配でならなかった。
本人の状態もそうだが、昔は後輩だった上司、常守がさらに気を揉んでしまわないかとも思う。ただでさえ他人には知り得ない重荷を背負ってそうなのに、執行官の管理まで。
だからできるだけ彼女の負担にならないような人材がいいとは思うのだ。
ホロデザイナーだったと聞いているが、これでコミュニケーションが取れるのかと思うほどパソコンに向かってばかり。
そういえば彼と言葉を交わしたのは着任の時だけだったような気がする。
これではいけないなと、宜野座は後ろのデスクに座っている彼に声をかけようとした。常守の負担にならないようにと思うなら、自分が引き受けるべきではないかと。

「雛河、……それ、なに食べてるんだ?」
「えっ、あっ、す、すみま、せん……」

雛河執行官は宜野座の声に驚いてびくっと肩を竦める。驚かせるつもりはなかったのだが、彼が手にしているものに宜野座の方こそ驚いたのだ。
白いご飯にサプリが乗っかっているように見える。いや、どう見ても色相安定のサプリだった。

「そんなに色相濁ってるのか? それにしてもご飯にかけるのは……初めて見た」
「すみませ……ん、あの、これ、その……好き、で」

怒られていると思ったのか、雛河は両手でその丼を持ち、しきりにすみませんと呟く。それさえ聞き取りづらかったが、宜野座はハッとして返した。

「ああ、いや、別に怒っているわけじゃ……、あ、……ただ、それ常守には見られない方がいいかもしれないな」
「え……」
「彼女は、自分より他人のことを優先するからな。色相がそんなに悪いのかと、心配になってしまうだろう」

同じ潜在犯である宜野座が見ても、逆に体に悪そうに見えてしまう。サイコパスが悪化しないならいいが、健常者には異常に映るかもしれない。
常守は執行官との線をあまり引かないから心配なのだ。

「あ、の……」

雛河が、おどおどしながらも宜野座を見上げてくる。いつも髪に隠れている瞳を、初めて見たような気がした。

「なんだ?」
「ぎ、宜野座執行官、は、その……お姉ちゃ……常守監視官を、あの……す、すき、なのかと……思って」

宜野座は目を丸くする。そして噴き出した。端から見たらそう取れてしまうのだろうかと。

「彼女のことは好きだが、恋という種類じゃないな。安心しろ。俺には俺で、他に惚れてるヤツがいるからな」

好きだがと口にした瞬間の、雛河の悲壮な表情を見てしまった。「お姉ちゃん」と呼んで常守を慕っているようだが、やがてその感情が淡い恋に変わるかもしれない。
監視官と執行官の恋なんてロクなものじゃないと身を持って知っているが、その気持ちは応援してやろう。

「良かった」
「え、な、なんで、……ですか」

ほうっと安堵の息を吐いた宜野座の真意が分からなかったようで、雛河は不思議そうに訊ねてくる。宜野座は口許に笑みを浮かべて、それに答えた。

「君が常守を慕っているのなら、彼女が困るようなことはしないだろう。少し経験を積めば、彼女の力に充分なれるさ。期待してるぞ雛河」

その言葉に、雛河の表情が一瞬だけパッと明るいものに変わる。見えにくいだけで分かりやすいんだなと、宜野座は初めて思った。

「が、頑張る、……ます」

他人とのコミュニケーションに慣れていない部分は、これからいくらでも改善していける。苦手だった俺が思うのもどうかと思うが、と口には出さずにモニターへと向き直る。

だが、その直前視界に入ったあのサプリ丼はやっぱり体に悪そうだなと思うのだった。