シークレットサービス

2014/12/23



 ドアを開けた途端、待ちかまえていたらしい腕の中に体が吸い込まれていった。
 予想していなかったことに宜野座はうわと小さく声を上げたが、抵抗することはない。なにしろ、そうした相手は恋人だからだ。

「おい、いきなりなんだ。びっくりするだろうが」
「ハハハ、びっくりするギノとか、可愛いな」

 体に巻き付く腕はほどかれず、そのおかげで声は耳元で聞こえる。が、そんなことももう慣れっこだった。
 恋人になってから知ったが、彼――狡噛慎也は思ったよりスキンシップが好きらしい。ときおりこうして脈絡もなく触れてくる。
 宜野座もそれ自体不快なことではないから好きにさせているし、布越しでも他人の体温というものは安心する。
 いや、まったくの他人であれば落ち着かないかもしれないが、素肌の感触さえ知っている相手ならば、拒む要素はどこにもない。
 しかし今日は長いなと息を吐いたところで、狡噛も同じように息を吐いたのに気づく。

「間に合ってよかった……」

 安堵した声が聞こえて、宜野座は怪訝に思った。間に合ったとは、なんのことだろうと。

「狡噛?」

 訊ねようとしたら腕はほどかれて、やっと体が解放される。玄関先での抱擁はとりあえず満足したらしく、狡噛は宜野座の手を引いてリビングスペースへと向かった。

「何か飲むか? メシ食ってないなら用意すてやるが」
「いや、夕食は軽く済ませたから……いつものでいい」

 オーケイ、と返ってくる。いつもの、で通じるあたり、相当ここに入り浸ってしまているのか、それともそもそもの選択肢がないのか。

「さっきの、間に合ったって、なんだ?」

 砂糖少しとミルクたっぷりのコーヒーを出されて、宜野座はそれを口に運びながらさっき訊ね損ねたことを訊いてみる。
 そう深刻なことではないのだろうが、腕に抱きしめたあとにというのは、自分が関わっているに違いないのだ。

「ん? ああ、ギノ補充。エネルギー足りなくてな」
「なっ……」

 思わず目を見開いた。人を電池みたいに言うなということもあるが、あんな方法で充電できるものかと。

「本当だぜ? 今日は出動あって忙しかっただろ、ギノと話す時間も、抱きしめる時間もなかった。ギノ不足で死ぬ」
「どっ、どの口が言うんだ! 出動前に貴様、キスしてきたくせに!」

 ぐいと腕を引かれて、柱の陰でキスをした。それを思い出して宜野座は頬を赤らめながら抗議する。仕事中に私事を挟むのは好きじゃないと何度言えば分かるのかと押しやったが、堪えてはいないのだろう。

「一日三回キスしないともたない」
「風邪薬か! か、仮にそうだとしても、仕事中にしなくたって、今こういうときにすれば済む話しだろう」
「おいおいギノ」

 狡噛は方を揺らして笑った。そうして腰を上げ、宜野座の正面へずいと近づき、逃さないようにと両手をアームレストについて少し高い目線から宜野座を見下ろす。

「誘ってんのか、キス」

 口唇が触れるまで数センチというところで、吐息をかけながら呟いた。宜野座はそれをある程度予測していたのか、驚くことはない。

「俺がこう言おうが言わまいが、どうせするくせに」

 ふんと鼻を鳴らした宜野座にまぁなと肯定してやったすぐあとに、狡噛の口唇は宜野座の口唇へと向かって降下していく。
 触れるだけでは当然充電などできず、狡噛はぺろりと口唇をなめて促した。それに応えて宜野座はうっすらと口唇を開き、狡噛の舌先を受け入れる。

「ん、ぅ……」

 押しつけるように舌先を合わせ、感触を楽しんで絡めた。宜野座は狡噛の背中に腕をまわしてしがみつき、ねだるように鼻を鳴らす。
 狡噛の指先は襟をくつろげた宜野座の首筋を撫で、器用にジャケットとシャツのボタンを外していく。そうしている間にも口唇は離さないで、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら触れ合った。

「ん……、ふ、っ狡噛、おい、待て……ベッドへ」

 シャツの合わせから手のひらを滑り込ませて素肌に触れてきた狡噛を、宜野座は理性で押しやる。  もう少しくらい行為の期間が開いていたら、このままここでしてしまっていたかもしれない。が、数日前にもこれでもかというほどセックスしていたせいか、がっついた気持ちはなかった。

「はいはい、分かったよギノ。その代わり、たっぷりサービスしてくれよ」

 頬にキスを落とし、狡噛はおとなしく移動を決める。そのサービスが目的なんじゃないだろうかと思うほど素直で、実際狡噛にもそういう気持ちはあるのだろう。
 サービスできるような技術もないんだが、と眼鏡を押し上げながら、宜野座は心の中で呟いた。



「ギノ、もっと足開いてろ、もっとだ」
「んぅ、んんっ……はぁ……ッ」

 自身の手に持たされた足をそれぞれさらに開く。わけが分からなくなるほどとろかされて、狡噛を欲しがることしか思いつかない宜野座は、それでも羞恥にか頬を染めた。

「すごいな……エロくて加減が利かん……っ」
「いっ……あぁ! あ、狡……噛、ふか、いッ……」

 腰がぴたりと合わさる。ずっと奥まで犯されて、宜野座はふるふると首を振った。ぱさぱさと頬に当たる長い前髪が扇情的で、狡噛は思わず舌なめずりをする。こんなに奥深くに入り込んでも、足りないとでも言うようにぎゅうぎゅうと締め付けてこられて、思っていた以上のサービスだと宜野座の腰を抱えた。

「え、あ……、あっ、あ、馬鹿、馬鹿っ……こんな、や」

 宜野座から引き抜き、また押し込む。繰り返していくうちに速度を速め、ギ、ギ、とベッドを嘆かせた。

「い……ぁ、あっ、あ……はぁっ、いやだ、狡噛、狡噛ぃっ」

 激しい揺さぶりに、宜野座は狡噛にしがみつく。互いの胸の間で汗が交わって滑る。肌のぶつかる音と、抑える気もないらしい宜野座の艶っぽい声が重なった。

「こう、がみ、も……いか、せろ、イく、いやだ」

 宜野座は狡噛の腕に爪を立ててふるふると首を振る。つま先はシーツを乱し、のけぞってほぼ一直線のラインを描く顎から喉の素肌に狡噛がしゃぶりつく。
 声で震える喉を舐め上げて、顎に歯を立て、たどり着いた口唇をむさぼった。

「んっ、んん、んぅう――っ……」

 それに誘発されるように宜野座はびくびくと体をわななかせる。キスに酔いながら、狡噛の腕の中で熱を解放する幸福。宜野座が肩で息をしている頃、狡噛もまた宜野座を抱きしめながら熱を解放した。

「んっ……中……」
「悪い、あとでちゃんとしてやるから……」
「ん……っんぁ」

 言いながらも狡噛は腰を揺さぶり、宜野座の中を体液で充満させる。淫猥な音に耳をふさぎたくもなるが、強く抱きすくめられていてそれもできない。

「抜くの面倒だな……気持ちいい……」
「馬鹿、抜け……っ充電とやらはできただろうがっ」
「あー……今結構出したし、取り戻さないとなぁ」
「屁理屈言うな、というか屁理屈にもなってない、欲の塊か貴様は!」

 そうだよ、と狡噛は口の端を上げて笑い、またゆるりゆるりと腰を動かし出す。
 なんでこんな男に惚れてるんだと嘆きながらも、拒みきれない情欲と、恋心。

「だったら、今度はお前がサービスしろ……っ」

 宜野座は諦めて、深いキスをねだってみせた。