キスの日−額:祝福・友情−

2013/05/23



どうにも気が重かった。
気が重いと言っても、望んでいた職じゃなかったわけでも、申し訳程度の採用試験に受からなかったわけでもない。
むしろ望んでいた職に就くことができて喜ぶべきなのに。
それでも宜野座伸元は、校門までの道のりをとぼとぼと歩きながらため息をついた。

本気なのだろうか。あの男は。

本気で、あんな軽い気持ちで公安局刑事課の監視官になるつもりなのだろうか?
あれ以来彼とは――狡噛慎也とは、ときおり進路の話をするようになっていたが、まさか本当にその道を選ぶつもりなのだろうか。
彼ほど成績優秀ならば、そんな危険な職に就かずともどの職種でも適正判定は出るだろう。監視官という職が、危険と背中合わせにあるということを彼は理解しているのか?その分収入はいいが、同等、もしくはそれ以上の職だってないわけではない。
それなのに、本当に? 本当に自分と同じ道を?
いや、もしかしたら最悪なセンスの彼なりのユーモアで、からかっただけかもしれない。
もしかしたら、違うトコにしたよとあの馬鹿馬鹿しいほどさわやかな笑顔で告げてくるかもしれない。
そう思うと、憂鬱で仕方がなかった。

「ギノ!」

待ち合わせをしていた校門に着く前に、声がかかって顔を上げる。
視界には、そわそわと心配げな狡噛慎也が映っていて、こんなに生徒やその保護者たちがいるのに、よくこうもすんなり見つけるものだと、あとから思えば感心してしまった。

「ギノ、どうだった?」

狡噛は人の波をかきわけて駆け寄ってくる。
どうだった、というかどこにした、と訊きたいのはこちらの方だと心の中で悪態をついて、宜野座はごまかすように眼鏡を押し上げた。

「……希望通り、公安局刑事課監視官の任をもらっ――」
「よかった! やったなギノ!」
「うわっ!?」

言い終わる前に、狡噛の嬉しそうな声と共に視界が上方に変わる。
腰から抱き上げられているのだと気づいたのは、そうした狡噛を見下ろしてからだった。

「よかった、お前暗い顔してたから、駄目だったのかと思ったぞ?」
「――お、下ろせ! 馬鹿ッ!!」

腰と太股に巻き付く狡噛の強い腕に、暗いと言われた顔が今度は真っ赤に染まる。
周り中の視線を全部集めてしまって、恥ずかしさで死ねそうだった。

「え、あ、ああ……高いの駄目だったか?」
「そういう問題じゃない! 本当にお前という奴はっ…」
「けど本当に良かった。これからも一緒だな、ギノ」

的を外した狡噛の腕から解放されて、宜野座は火照る頬をぱたぱたと仰ぎながら短く息を吐く。一瞬、聞き流しそうになって、え、と顔を上げた。

「これからもって……え、あ、じゃあ……お前も…」

同じ道を歩むのか。
声に出さずに訊ねたら、自信に満ちた笑顔が待っていて、複雑な気持ちでいっぱいになった。簡単に適正をもらってしまうんだなと、軽い気持ちじゃ駄目なんだからなと、嬉しい、と。

「ギノ」

狡噛の手がすっと伸びて、前髪をかき分ける。
そこに押し当てられた口唇を認識するのに、数秒かかった。

「祝福と、友情のキスだ。おめでとうギノ、これからもよろしく」




監視官×執行官>>髪:思慕 / 手首:欲望
監視官×監視官>>耳:誘惑
学生×学生>>額:祝福・友情 / 目蓋:憧憬 / おまけ