キスの日−目蓋:憧憬−

2013/05/23



またおやすみを言う前に寝られてしまった、と気づく。
いつもいつもそうされてからしまったと思うのに、どうして寸前で気がつかないのか。
狡噛慎也は仕方ないかと短く息を吐いた。
そのかすかな音で彼が目を覚ましてしまいませんようにと願う気持ちと、起きてくれないだろうかと思う気持ちが混ざって、複雑な感情に眉が寄った。
まあでも今はこの寝顔を見ていられるだけでよしとしよう。

まさかずっと焦がれていた相手と肌を合わせる関係にまでなれるとは思っていなかったのだ。

彼は、宜野座伸元はきっと知らない。日東学院に入学した当初から目を付け……いや、目を惹かれていたことなんて。
綺麗な顔立ちをしていた。自分に同性愛の嗜好があったとは思わないが、それでも意識のすべてを奪われた。
彼の周りに誰もいないことを不思議に思ったが、ほどなく噂で理由は知れて、そんな理由で誰も彼に手を出さないのか、チャンスじゃないかと思っていた矢先の事件。
まさか自分のことを知っていてくれたなんて思わなかったから本当にびっくりした。それほど努力したわけでもない(なんて言ったら殴られるんだろうが)考査テストも役立つなと思ったのだ。
俺のことは知らないのかと訊ねられて、思わず知っていると返しそうになったのをすんでのところで踏みとどまった。
知っているなんて言ったら、彼は意味をはき違えてちまっていただろう。潜在犯の息子だから、と。
惹かれているといきなり言ったところで彼は信じないだろう。だからこそうろ覚えを装って首をひねってみたのだ。
遠くから見ても惹かれた。近くで見ても惹かれた。彼の内面を知って、さらに焦がれた。もっと内側を知りたい。誰も知らない面を見たい。
止めようとしても育ってしまった恋心に、いつしか諦めを覚えてとうとう口に出してしまったことを思い出す。
大きく見開かれた目と、次第に赤く染まっていく頬と、はくはくと金魚のように開閉を繰り返す口唇。

脈アリなのかナシなのか迷っていたら、襟を掴まれて口唇をぶつけられたのだったと。

それがキスだと認識するにはぶつかった歯が痛くて、OKのサインだと認識するにはどうにも幼すぎた。
バツが悪そうに目をそらした彼を思いきり抱きしめて、抱き返してもらってそこで初めて実感したな、と思い起こしてすやすやと眠る彼の髪をなでる。
鎖骨の下に残る、というか残した赤い痕に苦笑しつつも嬉しくて、次もきっとおやすみを言う前に寝られてしまうほど加減できなくなるんだろうなと、閉じた目蓋にキスをした。




監視官×執行官>>髪:思慕 / 手首:欲望
監視官×監視官>>耳:誘惑
学生×学生>>額:祝福・友情 / 目蓋:憧憬 / おまけ