キスの日−耳:誘惑−

2013/05/23



ソファに寝ころんで、体の向きを変える。すぐ視界に入ってくる恋人の後頭部に視線を固定して、宜野座はときおり動く頭を眺めていた。
どれだけぶりだろうか、ふたりそろっての休日というのは。
係が分かれているおかげで、シフトを巧妙に調整すれば月に三回くらいは一緒にできるかもしれない。
が、そうそううまくいくはずもなく、実際これは二ヶ月ぶりに被った休日だった。
それは仕方がない。個人の都合より市民の安全を優先させる職に就いているのだし、それはお互い誇りに思うところだろう。
休みが合わなくても勤務後に食事に行ったりすることはままあるし、メールだって電話だってするし、時間があれば肌を重ねたりだってする。
不満があるわけではないのだ。不安があるだけで。
たまにそろいの休日くらい、本を読むのをやめてこちらに構ってくれないだろうか。
だがこちらから話しかけようにも、事件の話題になってしまいそうでどうにも色気がない。彼の好みそうな話題など、すぐに出てこないのだ。
これといって共通の趣味があるわけでもない。そもそも宜野座にとって趣味とは、AIカウンセラーに勧められたことをこなすことだ。彼の言う「趣味」とはかけ離れてしるのだろう。
彼が今読んでいる本は、自分も以前電子書籍で読んだこともあるが話題にするほど読み込んでいない。
学生時代はどんな会話をしていたっけ? と思い起こそうとして、いつだって彼の方からアクションを起こされていたことを思い出して失敗する。
そんな自分といて、楽しかっただろうか? なぜ恋人関係になったのだったっけ? なんて不安だけ襲ってくる。

こうがみ。

音には出さずに、口唇だけ動かして恋人の名をなぞった。

「なぁギノ」

音には出していないはずなのに、応えるように声が返ってきて体が跳ねる。心臓に悪いのではないかと思うほど、ドクンと音がした。

「えっ、あっ、な、なんだ?」

彼が――狡噛慎也が本を閉じて床に置き振り向いて、片腕をソファに乗せてくる。その日初めて触れた体温に、体中の血が沸いた。

「休日くらい、お前をゆっくりさせてやりたいと思ってたんだがな……その、どうにも本に集中できなくて」

すまん、と口唇が近づいてくる。宜野座は目をぱちぱちと瞬いて、なんだ彼も我慢していたのかとホッとした。
腕を伸ばして、引き寄せる。

「狡噛、……しよう」

耳元に口唇を寄せて、精一杯誘ってみせた。




監視官×執行官>>髪:思慕 / 手首:欲望
監視官×監視官>>耳:誘惑
学生×学生>>額:祝福・友情 / 目蓋:憧憬 / おまけ