キスの日−手首:欲望−

2013/05/23



「帰るのか?」

ソファから体を起こして、放っておかれたシャツを拾い上げる彼を振り向いて、声をかける。
彼が――宜野座伸元がこの部屋で寝泊まりしていったことはないと理解していても、お決まりのようにだ。

「こんなところで寝られるか」

さっきまで体を重ねていたというのに、相変わらず甘ったるい雰囲気にはならないなと、狡噛慎也は苦笑する。もっとも、体を重ねている時でさえ甘い雰囲気になどならないのだが。
恋人同士ではない。
そんなことは分かっていると、狡噛は彼を抱いたソファにドカリと腰を下ろす。

「たまには泊まっていきゃいいのによ。ベッドがないわけでもないんだぜ」

使ったことはないけどなと笑うと、シャツのボタンを留めた宜野座が見下ろしてくる。
その視線でなら殺されてもいいなどと思う自分は、なるほど元から潜在犯に落ちる要素があったのだと納得した。
つなぎ止めておきたい。それが確かな欲望だ。





帰るのか、と彼が言った。宜野座はこんなところで寝られるかと返し、ボタンを留める。
硬いソファなんかで眠っても疲れが取れないというのは理由のひとつだったが、愛犬が自分の帰りを待っているというのももっともらしい理由だし、着替えたいというのも理由だ。

「ベッドがないわけでもないんだぜ。使ったことはないけどな」

そうだ、体を重ねるのがいつもこのソファだというだけで、執行官の部屋にベッドがあることは監視官である宜野座も知っている。
ベッドで眠りたいというならそれを使えばいい。
愛犬が心配だというなら、AIをリモート操作して一日だけ世話を任せればいい。
申請すれば、衣類はすぐにドローンが届けてくれる。
どれももっともらしい理由だが、すぐに崩れるものだった。
それでも最大の理由だけは、この先も崩れないと宜野座は思っている。

「俺は恋人という名の慰みものになるつもりはない」

恋人になんかなれやしない。
そんなことは分かっていると、狡噛に背を向けた。
途端に視界が揺れる。またソファに引き倒されたのだと気づいたのは、怒りの満ちた狡噛の瞳に見下ろされたからだった。

「…………お前は充分慰みものだよ、ギノ」

この獣をつなぎ止めるには、それしかないと思っている。それは確かな欲望だ。

宜野座はその瞳を見ないようにと、腕で目を覆う。

「――好きにしろ」

そうして手首に触れた口唇の意味を、おそらくお互いが知っていた。



監視官×執行官>>髪:思慕 / 手首:欲望
監視官×監視官>>耳:誘惑
学生×学生>>額:祝福・友情 / 目蓋:憧憬 / おまけ