きみにKISS

2015/01/07



レイドジャケットも脱がないまま、口唇を合わせた。

「ん、……」

捕り物を終えて公安局に帰ってきたとたん、駐車場の柱の影に引っ張り込まれた宜野座は、いくらか予想していた展開に呆れつつも、素直に目を閉じる。
ここは確かカメラからは死角になっているはずだし、捕り物とは言っても潜在犯の一歩手前だった民間人をセラピー施設に送り届けただけ。
何も監視官が二人も出動することはなかっただろうが、シフトの調整上明日は一係に休暇が与えられている。「給料分の仕事はしないとな」とは、狡噛の言い分であった。
しかしそれが建前であることは、「お前がレイドジャケット着て走り回ってるの好きなんだ」と臆面もなく言ってきた狡噛の言葉から窺い知れる。
狡噛が一係に転属になってから、こうして二人で現場に出向くことも少なくない。そんな中で発見した、スーツとも私服とも違う恋人の姿。
それに心がときめくのは仕方ないなと、宜野座も身を持って知っていた。
だからこんな時、拒むに拒めない。ここ最近忙しくてろくに触れ合えていなかったことも手伝って、背中に腕を回してしまう。

「ふぁ……っ」

本当にここ数日は出動続きで、ゆっくり世間話をする余裕もなかった。甘い恋人同士の会話なんて、他の監視官や執行官がいる場所ではできやしない。もちろん抱きしめ合うことだって。
それを我慢している反動なのか、狡噛はこういうとき殊更強く抱きしめてくる。ジャケットがこすれ合って、乾いた音が立った。

「ン、う……ふ」

触れるだけだったキスが、だんだん深くなってくる。油断も隙も有りすぎる宜野座の口唇の間から舌先を滑り込ませるなんてこと、狡噛には簡単なことなのだろう。宜野座は狡噛のレイドジャケットに爪を立てるが、防刃機能も備えている素材では痛みさえ阻むに違いない。

「狡噛……、……っん、おい、こらっ……ぁ」

だがいくらなんでも長い、と力一杯押し退けて、宜野座はぷはぁっと息を吐き出し濡れた口唇を拭う。名残惜しい気持ちがないわけではなかったが、まだ勤務中なのだ。

「ああ……すまん、つい夢中で。やっとふたりっきりになれたんだぜ、しょうがないだろ」
「だからってこんなところでッ……おい離せ、誰かに見られたらどうするんだ」

狡噛は性懲りもなく宜野座を抱き寄せる。そうしていることが安心とでも言うように、腕の中に閉じ込めてゆっくりと息を吐いた。

「その時は、堂々と恋人宣言するだけだろ」

他になにかあるのかとでも言わんばかりの言いぐさに、宜野座はぽかんと口を開ける。どうしてこの男は、勤務中だということを頭においてくれないのか。

「ギノは嫌か? 俺と恋人宣言するの」
「ばっ、馬鹿そうじゃなくて、勤務中だからだ! 真面目に仕事したいだけで、別にその、お前とのことが嫌だとかそういうのは……ない」

しょぼくれた声が耳のすぐ傍で聞こえ、慌てて否定を返す。そうしてから、策略にハマッたような気がした。いや、これは絶対に答えが分かっていながら訊いているに違いないのだ。

「良かった。お前のそういう真面目なところも大好きだぞ、ギノ」

その証拠に、答えてすぐに口唇にちょんとキスが降ってくる。

「狡噛っ!」
「家まで我慢するんだ、これくらい大目に見てくれよ。早いとこ顛末書出して帰ろうぜ。続きは家でゆっくりと、……な」

そう言ったあとは素直に体を離し、屋内へとつま先を向ける。出動の顛末書を書いて提出したあとは、どちらかの家に転がり込むことが決定してしまっているようだ。

――――今夜は眠れそうにないな……。

宜野座の方も、そういう触れ合いを望んでいないわけではない。久しぶりに二人で一緒に過ごせるのは嬉しい、と触れられた口唇を無意識に指でなぞって、狡噛のあとにつく。
こんなにふにゃふにゃ可愛い顔をしておいて誰にもバレていないと思っているあたり、ギノだなあと横を歩く狡噛が愛しそうに眺めているのを知らないままで。