今年もきみと

2015/01/08



待ち合わせの場所が見えてきた。十五分前だなと時計を見下ろした直後だったが、そこにもうすでに待ち合わせの相手がいることに驚き、宜野座は思わず小走りになる。
相手の男もそれに気がついて、もたれていた壁から体を起こした。

「狡噛、すまない待たせてしまって」
「気にするなよ、時間的には遅れてないんだし。それに、去年言っただろ? 俺はギノを待つ時間てものが、嫌いじゃない」

狡噛はそう言って笑う。確かに待ち合わせの時間にはまだ少しあるが、待たせてしまったことに若干の後ろめたさと、不思議なことを言う狡噛に小首を傾げた。

「お前は相変わらずおかしなことを言うんだな」
「そうか?」

宜野座自身は、待つ時間というものがあまり好きじゃない。待っても相手が来なかったらどうしようという思いは、おそらく幼い頃家族の帰りを待っていた時の不安なのだろう。

「あ、そうだ。狡噛、明けましておめでとう」
「ああ、おめでとうギノ。今年もよろしく」
「こちらこそ」

年が明けて最初の逢瀬。今日は、去年できなかった二人での初詣をしようと狡噛が誘い、宜野座が少しためらいながらも了承した日。
とはいえ二人の自宅は離れていて、どこに行こうかと相談した結果、学校の近くにある神社へのお参りに来たのだ。
学校の近くで待ち合わせることで、宜野座の不安を少なくしようとした、狡噛の配慮だったかもしれない。

「さっきさ」
「うん?」

神社への道のりを二人で歩きながら、狡噛がふっと口の端を上げる。宜野座はそれを横目でちらりと見やり、先を促した。

「待つ時間は嫌いじゃないって言っただろ。今日改めてそう思った……というか、むしろ好きになったな」
「今日? なんでだ」
「俺を見つけて小走りに寄ってくるギノがすごく可愛かったから」
「なっ……! なにを、馬鹿なこと!」

宜野座の頬が真っ赤に染まる。自分はただ急いで駆けてきただけなのに、それのどこを可愛いと言うのだろうか。まったく狡噛の言うことは理解しがたい。

「待たせて悪いって思う、ギノのその優しさが嬉しい。俺はギノにとって特別でありたいんだ。それをそういう瞬間に実感できる」
「そんなの、と、特別に決まってる、だろ……恋人、なんだ、から」

交際をして一年以上も経つのに、いまだにその手の言葉を発するのは恥ずかしくて、苦手だ。もしかしてそれは狡噛を不安がらせているのだろうかと、宜野座の方こそ不安になってくる。

「あの、狡噛……俺」
「なあギノ、手をつないでもいいか?」
「えっ、だ、だが、外じゃ」
「こんだけ人が多けりゃ見えないさ。それに、はぐれちまうだろ」

神社が近づくにつれ、確かに人が多くなってきている。みんな初詣に向かう人々のようで、同じ方向へ流れていくようだった。
ちょっと油断すればその流れに乗り切れずはぐれてしまう可能性も、あるだろう。

「そ、そうか……じゃあ、あの、手」

差し出された手に自分のを重ねて、どうか学校の連中に遭遇しませんようにと祈りながらぎゅっと握りしめた。
狡噛が嬉しそうに笑ってくれて、こんな時は素直になって良かったと思う。

「年越しソバ食べたか?」
「一応オートサーバで作って食べた。でも一人だと寂しいな」
「じゃあ、来年は一緒に食べよう」
「お前が迷惑じゃなければ」

つないだ手から体温が伝わるせいか、宜野座がいつもより素直に受け入れる。年明け早々可愛いな、と狡噛は口に出さずに思いながら、人の波に流れて神社へと向かった。

「こうして、またひとつギノとできることが増えてくって、いいな」
「そうだな……毎日じゃなくていいから、それまでしていなかったことを、お前とできたらいい」

お互いにそう笑い合って、つないだ手をぎゅっと握りしめる。人混みでもはぐれないように、ずっと一緒に歩けるように。
そうして、お賽銭を投げ入れて、祈る。

今年もこの人と良い年を過ごせますように。