興味はないが

2012/12/02



狡噛、と名を呼んで、宜野座はのしかかる男を押しやる。
が、聞こえていないのか聞くつもりがないのか、狡噛は首筋に顔を埋めたまま体を起こそうともしない。

「……っ狡噛、待てと言ってるんだ!」

それでも力の限りに腕を突っ張ったら、ようやく思いが叶い互いの体の間に距離ができた。

「なんだよ、今さらイヤだなんて言ったって、止まるもんじゃねえぞ」

行為を中断されておもしろくないらしい狡噛が、目を細めて見下ろしてくるのに、宜野座は少し赤らんだ頬を背けて言った。

「だ、誰もイヤだとは言ってないだろう……っ」

狡噛慎也とは、おそらく恋人同士と呼んでいい間柄だ。想うだけではお互い足らず、視線も手のひらも、口唇も体も重ねてきている。
だからこの行為がイヤだというわけではない。

「じゃあ、なんだよギノ」
「あ、明かりを消せと言ってるんだ!」

イヤだと思うのは、光度の落ちていない部屋の明かりだ。
スイッチ一つでどんな明るさにも変えられるというのに、今この部屋は最高高度から一段階ほど落としただけ。これでは、何から何まで見られてしまって落ち着かない。

「だいたい、お前はいつもいつも! 部屋でならまだしも……会議室だの階段だのっ……場所も選ばないで!」

そこでコトに及んだ事実を思い出したのか、宜野座は顔を真っ赤にして限界まで背け、シーツに押しつける。

「なんだってそう、明るいところでしたがるんだ……!」

時と場所と些細な要望さえ受け入れてくれれば、自分から行為を望んでやっても構わないというのに。

「分かってねえなギノ、男心ってもんが」
「はァ?」

なじるようにもはねつけてやったというのに、狡噛は笑って返してくる。
分かっていないとはどういうことだ。
思わず振り向いた宜野座に、狡噛の体が覆い被さった。頬を通り過ぎ、指先は口唇をついと撫でて、そのすぐ傍で囁かれる。

「お前の裸が見たいんだよ」
「な……っ」

つなぐ言葉を失った。おもしろそうに見下ろしてくる狡噛を脳がやっと認識して、宜野座は声を張り上げる。

「へ……変態かお前は! 何が楽しいそんなものッ」
「いや普通の感覚だろ……」

だから分かってねえって言ったんだ、と狡噛は宜野座の胸に手を滑らせる。その体温に、慣れていても思わず声が上がった。

「んっ……」
「惚れてる奴の体全部知っておきたい。目で見て、手で触って、これが俺のなんだって実感してえだろ」

暗いとこじゃそれもできないと、狡噛の手はことさらゆっくりと体のラインをなぞってくる。ときおり指先で押し揉んでは口唇で痕を残し、口角を上げるのだ。

「バ……カな、ことをっ……ぁ、っん…」
「お前は思わねえのか、ギノ。俺の裸にかけらほども興味はねえのか?」
「あっ、あるわけ……!」

浅くついた腹の筋をなぞられて、びくりと体が震える。その拍子に浮き上がった右手を取られ、宜野座は怪訝そうに目蓋を持ち上げた。

「な、なに……」
「じゃあ、興味持て、今。目で見て、手で触って、俺という男を確かめろ、ギノ」

右手が、狡噛の厚い胸板へと持っていかれる。手のひらに感じる体温に戸惑って、宜野座は恐る恐る狡噛を見上げた。

「お前を抱いてる男を、知っておけよ」

不敵すぎる笑みに、意識のすべてがさらわれる。カアッと上がった頬の熱を自覚して、触れた手を離したかったけれど。

「ギノ」
「……分かったから、あとでちゃんと明かりを消せ」

ねだるような声音に負け、自分の意思で彼の体に触れていった。
鍛え上げた肉体は、自分にはないものだ。筋肉の付き方がまるで違う。首も、胸も、腹も、背中も。きっと足も全然違うのだろう。

「はは、くすぐってえ……」
「お前が触れと言ったんだろう。わがままを言うな」
「そりゃそうだが……そんなに優しく触られるとは思ってなかったんだよ」

じゃあつねってやればいのだろうかと、腕を少しつねってみたが、狡噛はやっぱり笑うだけだった。

「どうだ? ギノ」
「何が」
「何がって……だから、触ってて……楽しいとか、嬉しいとかねえのか? 俺はいつも思ってんだけどな」
「いや、別に楽しくも嬉しくもないが」

ひたり、と確かめるように胸に手のひらを這わせ、宜野座は呟いて返す。それを聞いて狡噛は、残念そうに、そうかよと大きなため息をもらした。


「ただ……いつもこの胸に抱かれてるのかと思うと、気恥ずかしいな……」


が、困ったように片眉を下げた宜野座に目を見張って、こらえきれずに彼を抱きしめる。
そうされた宜野座の方は驚いて、いきなり何だと不機嫌そうな声を上げた。

「お前の可愛さは意味が分からん……とっさに対処できるもんじゃない」
「意味が分からんのはこっちの方だッ! おい狡噛っ……だから、明かりを消せと……!」
「消す時間が惜しい」
「こうが……ッ」




抗議をキスで塞がれたあと、隅々まで体を撫で回されてイかされて、結局明かりが点いたままの部屋で体を重ねてしまった。

「……何が、興味ねえのか、だ。持てるかそんなもの」

満足そうに眠りこける男の胸に頬を寄せ、息を吐き出す。そこまでして宜野座は、やっと部屋の明かりを落とすことに成功したのだった。