Rainy Day

2013/10/27



雨の音で意識が浮上する。ふっと目を開けると、すぐに視線を感じた。瞬いてその視線の主を確認すると、見慣れすぎた男の顔が見える。

「……なに見てるんだ」
「ギノの顔」

狡噛は何でもないように返してくる。楽しそうな笑いさえ浮かべる男に、宜野座は少し汗で湿った髪をかきあげた。
「なにが楽しい、そんなもの」
「楽しいぞ? ギノは俺とこうしてる時だけ眉間のしわがなくなるんだ」

ツンと人差し指で眉間をつつかれて、宜野座は頬を染めた。いつもどれだけ皺が寄っているのかと思うと恥ずかしくて仕方がない。
さらに、狡噛と同じベッドで時を過ごしている時だけそれがないなんて言われて、どれだけ狡噛に甘えているのか思い知らされていたたまれない。

「わ」

気恥ずかしくて視線を泳がせたら、引き戻すように眉間に口唇が落とされた。そこから体温が沁み渡ってくるようで、宜野座は目蓋を閉じたまま狡噛の口唇を感じた。

「こうやってここにキスできるのも俺だけだと思うと、やっぱり嬉しいな。おはようギノ」
「ああ……おはよう狡噛。雨、やまなかったな」

残念そうに呟くと、そうだなと同意が返ってくる。昨日ふたりで作って飾ったてるてる坊主は、効力がなかったらしい。まあそもそも、あんなもので雨が去っていくならそれははじめからの天気なのだ。

「今日、どうしようかデート。晴れてたらダイムの散歩行ってそのまま公園でぶらぶらしようかと思ってたけど」

雨じゃなあ、という残念そうな言葉とは裏腹に、狡噛は幸福そうに宜野座の体を抱き寄せる。俺は抱き枕じゃないとため息を吐きながら、傍にあれば抱き寄せたくなる気持ちは分かるのだ。

「じゃあダイムの散歩行って、家でゆっくりテレビでも見てるか?」

たまにはそんな怠惰な一日があってもいいのではないかと提案してみたが、狡噛はうーんと考えこみ、あまり気乗りしないようだった。

「あ、そうだ。行きたいところあったんだ」
「行きたいところ? どこだ」

至近距離で狡噛を見上げて、訊ねてみる。すると狡噛は、本屋、と答えた。

「本屋?」
「ああ、確かもう新刊出てるはずなんだよ、好きな作家の」
「紙で出版してるのか、珍しいな。しかしなにも雨の日に行かなくても」

狡噛が電子より紙の本を好むのは知っている。だがだからこそ、こんな雨の日に買いに行っては、せっかくの本が濡れてしまわないだろうか?
「濡れないように工夫するのもおもしろいもんだぞ」
「変わったヤツだとは思っているが、本当にお前は変わっている。そうまでして欲しいものだということは分かったが、近場なのか? あまり歩き回るのは、少し……」

腰が、と小さく呟く。ダイムの散歩で慣れた道を歩くのと、知らない道を歩くのでは負担が違うのだ。腰が痛い理由に気づいた狡噛が、

「はは、すまんすまん。近くだよ、何だったらおぶっていってやろうか?」

少しも悪く思っていないような口調で告げてくる。

「結構だ、バカ!」
「怒るなって、冗談だよ。お前の好きなパン屋で何か買ってやるから」

機嫌を損ねてしまってはせっかくの休日が無駄になる、と狡噛は腕の中から這い出した宜野座に提案してやった。宜野座は一瞬動きを止めて、

「一日限定五十個のメロンパンなら、許してやってもいい」

めいっぱい、わがままを言ってみせる。狡噛は笑って起きあがり、そうと決まれば善は急げと二人は雨の休日を楽しむことにしたのだった。



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