お散歩

2014/12/29



冬の寒さが、吐く息を白く変えていく。肩を竦めて寒さに耐えてみると、隣から寒いか? と声がかかった。

「寒くないわけないだろう、この時期に」
「マフラーしてくれば良かったのに」
「こんなに寒いと思わなかったんだ。まあ、歩いてるうちに気にならなくなるだろう」

そう言って宜野座は、再び愛犬たちと歩き出す。いつもは曇っている空も今日は朝から晴れていて、絶好の散歩日和だ。

「それより、大丈夫なのかお前、出歩いたりして。スキャナはそこここにあるんだぞ」
「ハ、今さらだろう。公安局が俺を捕まえる気なら、とっくにお縄になってるさ」

隣を歩く男を視線だけで振り向いてみる。男の名前は狡噛慎也、かつて公安局に身を置いていた人間だ。ある事件で出奔し追われる身となったはずで、実際あれから姿を見ていなかったのだが――。

「今日だけ、という条件で見逃してもらっている。スキャナに引っかかっても除外されてるんだろうな。今の俺は、透明人間状態だ」
「そうするのにいったいなにを対価にしたんだか……本当に馬鹿な男だな」

あきれ果てる、とため息を吐いた。シビュラに不審を抱き、背き、敵視された男がそう簡単に見逃されるはずもないのに、この男は――そしてシビュラと常守朱は、どんな取引をしたのだろう。

ただ恋人の誕生日を祝いたいというだけで。

昨夜からさんざん驚かされ、甘やかされ、甘えられ、久しぶりに体温も感じたが、納得はしていない。抹殺される危険を理解していながらたかが誕生日ごときで身をさらすなんて。

「ああ、まあ俺自身も驚いてるがな。こんなことするほど、ギノに惚れてたんだと思うと、面白い」

こんな風に穏やかに笑う狡噛は見たことがない。きっと再会するまでにいろいろあったのだろう。それは宜野座自身もそうだが、それはまたいつか笑って話せるはずだ。

「しかしギノとこうして散歩までできるとはさすがに思ってなかったからな、正直浮かれている」
「おい外ではやめろ」

狡噛の手が腰に回され、引き寄せられる。ここは室内でなく他人もいる外なのだ、スキンシップは控えたい。

「お前が寒いって言うからだろう」
「寒いとは言ったがこんなことをっ……」

振り向くことを予想していたのか、口唇同士が触れ合ってしまった。外ではやめろと言った傍からこれでは、先が思いやられる。

「……本当にお前は、人の話をきかないな」
「キスくらい構わんだろ」
「お前の基準と俺の基準は違う、なんでいいと思うんだ」

他人は自分が思っているよりこちらのことを気にかけてはいないとはいえ、気恥ずかしい。それを、仕方ないヤツだと受け入れてしまう自分が情けなくて、愛しくて、こそばゆい。

「ならこうして抱きしめるのもか?」

狡噛の体温を背中に感じる。わき腹に絡んでくる腕をふりほどいてやろうとしたら、正面から愛犬のダイムが前足を上げてじゃれついてきた。主人を独り占めされたくないのか新しい遊びと思ったのか、宜野座には逃げ場がなくなってしまう。

「お前ら……」

背中には恋人の体温、腹の辺りには愛犬の体温、わふわふと小さな声を上げるダイムと、首筋に鼻先をすり寄せてくる狡噛。

「これじゃ散歩にならないだろう。ほらダイム、行くぞ。……狡噛、手くらいならつないでやるから拗ねるな」

そう言って右手を差し出す宜野座。寒いのに手袋をしなかった理由は、素肌で体温を感じていたいからだ。それを察してか、狡噛も素直に手を重ねてきてくれた。

「ギノ、もう何度か言ったが、誕生日おめでとう」

指を絡め、狡噛は宜野座に向かって笑いかける。

「ああ……何度も聞いたが、ありがとう」

宜野座も笑って、きゅっと指を絡め返した。
ふたりと一匹、そろって踏み出す足取りは、とても軽いものだった。