神様にお願い

2015/01/06



逢いたい。

冬休みに入って十日。電話越し、ストレートにそう言われて、今からか? ともったいぶってみたけれど、今から、と強調されて口の端を上げた。逢いたいのはこちらも同じだと、言葉にはできなかったけれど。

「コーヒーくらいしか出せないぞ」
『ギノに逢えればそれでいいさ』
「……馬鹿」

心臓のあたりにくすぐったい感触を覚えながらも、宜野座は嬉しそうに笑った。
と同時に、チャイムが鳴る。
え、と目を瞠って携帯端末を持ったまま玄関を振り向く。来客の予定なんかない、それこそ今こちらに向かっているだろう狡噛くらいしか、と思うが早いか、耳に当てた端末から声がした。

『来たぞー』
「えっ、ちょ、待っ……」

まさかチャイムを鳴らした相手は狡噛なのかと、慌てて玄関へと駆ける。もてなしの用意も何もできていないが、ドアを開ける前手櫛で髪を整えたのは、やっぱり恋心からだろうか。

「狡、うわっ」

ドアを開けて相手を認識するより早く、腕の中に閉じ込められた。

「ギノ、逢いたかった」

ぎゅうと抱きしめてくる相手はやっぱり狡噛慎也で、宜野座は突然の抱擁に目を白黒させる。

「バッ、馬鹿、いきなりなんなんだっ」
「だって十日も逢ってなかったんだぜ。あ、そうだギノ、明けましておめでとう。今年もよろしく」

狡噛はふと気がついて、強く抱いていた腕の力を緩めた。そうして正面で顔を見合わせ、ようやくの挨拶。新しい年が来て初めての逢瀬だ、まずは新年を祝おう。

「え、あ、ああ……明けましておめでとう狡噛。こちらこそよろしく」

宜野座も、そういえばそうだったと思い出し、挨拶を返す。
ひとつ瞬きをすると、口唇が近づいてきて、宜野座は恥ずかしそうに目を閉じた。
口唇が触れて、新年最初のキスになる。

「……来るの早すぎだ、コーヒーも準備できてない」
「すぐそこから電話したんだ」
「俺が出かけてたらどうするつもりだったんだ、馬鹿。せめて家を出るときにかけてこい」

仕方のない奴だ、と胸を叩いて、狡噛を部屋に招き入れる。

「いなかったら、待つさ。そういう時間は嫌いじゃない」
「……明後日、学校で逢えるのに」
「あと二日も我慢しろっていうのか? 二週間近くギノに逢えないとか、拷問だぞ。冬休みって本当につまらない」

平日は毎日のように逢えていたことを考えると、休暇というのは本当に寂しくてつまらない。口をとがらせてすねる狡噛を、思わず可愛らしいと感じてしまった。

「お正月は、お母さんとゆっくりできたか?」
「あー、そうだな、初詣も行ってきた。ギノも誘いたかったんだけど」
「俺は人混み苦手だからな。色相濁りそうだ」
「そう思って、ギノの分もお参りしてきたよ。お願い事もちゃんと言ってきたからな」

ギノらしいと笑って、狡噛は宜野座の愛犬を撫でながらリビングへと向かう。そんな狡噛の背中を、驚いたまなざしで宜野座は眺めた。

「お願い事って……俺何か言ってたっけ、そういうの」

言った記憶もないんだけど、と首を傾げる。そもそも願っても無駄だということを経験として知っている宜野座は、形のないものを望んだりしていない。諦めることを覚えてしまっているのだ。
だから、いくら恋人とはいえ狡噛が宜野座の願いというものを神様にお願いできるわけもない。
それなのに狡噛は、したり顔で振り向いてきた。

「俺とずっと一緒にいられますように、だろ?」
「……なっ……」
「あ、あとダイムもな。ほらお前にもおみやげのドッグフードもってきたぞー」

二の句が継げない。宜野座は頬を赤らめて、ゆるんでしまいそうになる口許を隠す。

「……馬鹿……」

意識していなかった潜在的な願いを、狡噛は神様に願ってくれた。それは彼自身の願望もあったのだろうけど、どうして分かってしまうのだろうと小さく悪態をつく。

「今年も来年もその先もずっと、一緒にいような、ギノ」

答えの代わりに狡噛の腕を引いて振り向かせ、珍しく自分の方からキスをした。
来年は、一緒に初詣に行けたらいいと考えながら。