ちらりと覗いたきみの本音

2016/10/10



 さらり、さらり。
 指をほんの少し動かすだけで、それは隙間から抜け落ちていく。
 汗で濡れた部分を見つけ出しても、とすん、と落ちていく。
 それが面白くて、高杉は繰り返し、繰り返し桂の髪をすくい上げた。

 さらり、さら、さら、とすん。

「おい」

 向けられた背の向こうから、諫めるような声が聞こえるけれど、手触りのいい髪から手を離したくない。
 さらさらと流れていく艶やかな黒髪を、指先でより分けて、髪の向こうに見えたうなじに触れる。ぴく、とわずかに肩が揺れたように見えた。きっと先ほどまでの情事を思い出してしまったのだろう。
 高杉は笑って、まだ首筋を埋める髪を分けてみた。

「なんなのだ鬱陶しい!」

 あ、と吐息のように、高杉の口から声が漏れた。まだ触っていたかったのに、桂が体を起こして勢いで振り向いてくる。胸に散らばった鬱血を見るのは楽しかったが、指先が寂しくなった。

「……別に」
「貴様、機嫌がいいのか悪いのか、どちらかにしろ、この馬鹿め」

 髪が指先から遠ざかってしまって寂しいのと同時に、桂の顔を見られた幸福がやってくる。ごちゃ混ぜになった気分を悟られたくなくて、ごまかすように頬へと手を伸ばした。

「悪くはねーさ。お前さんをいいようにできたからなぁ」
「……破廉恥な。離せ」
「なんだいもう行くのか」

 ふいとそっぽを向く桂を、無理に引き留めようとは思わない。赤くなる頬を見送るのも、案外好きだった。
 桂は着物を羽織り袖を通す。帯をきっちり締めてから、腰を上げた。

「……どうした? 桂」
「別に」

 いつもより若干動きが鈍いことに気がついて、高杉は声をかける。あれだけ無茶な抱き方をしたのだ、動きが鈍いのも道理かもしれないが、そんな抱き方はいつもと変わらない。
 今日に限って、なぜ。何か気に障ることでもあったのか。
 立上がった桂を視線だけで追いかける。引き留めるなんて野暮なことはしない、されたこともない。

「貴様は」
「あァ?」
「貴様は、引き留めんのか」

 布団の上でついていたほおづえが、かくりと外れてしまう。
 何を言ったのだ、桂は。何を言われたのだ、自分は。

「終わったあとにもあんなに髪に触れたがっておきながら、引き留めもせんのか。まったく腹の立つ」

 目を瞬いて、思わず笑ってしまった。憤慨しながらとんでもない言葉を吐くものだと。
 引き留めてほしい。その背中が言っていたのに、気づけなかった。いや、考えてみればその前からだ。鬱陶しいと体を離して起ったのは、髪がくすぐったかったからでも、まして本当に鬱陶しかったわけでもなかったのだろう。
 なんなんだ、と訊ねてくれていたのに、高杉はそこで途切れさせてしまったわけだ。

「あァ……本当にお前さんには、敵わねェなあ」

 高杉は手を伸ばし、桂の着物の裾をつんと引っ張る。それでも桂は振り向いてくれない。もういちど、つんつんと引っ張った。意地っ張りは、やっぱり振り向かない。
 仕方なく体を起こす高杉。最近ようやく寒くなってきた気温では、やはり人肌が恋しい。

「桂。……来いよ」

 そうして腕を伸ばし、帯の端を引っ張る。ほら、と両腕を広げてみせると、桂はようやく振り向いてくれた。

「……あくまで俺に選択させる貴様が気に食わん」

 そう文句を言いながらも、膝を折って腕の中に収まってくれる。高杉は、それをぎゅうと抱きしめて、改めて桂の体温を確かめた。

「ヅラ。お前の髪、好きだぜ」

 抱きしめる腕に、髪が降る。高杉はそれを指に絡ませ、遊んだ。さっきの答えのつもりで呟いた言葉は、桂の機嫌を上昇させたらしい。

「本当は全部好きなくせに、もうちょっと素直になってもいいのだぞ?」

 ご機嫌な口唇が、頬の上に降ってきた。



お題提供:リライト
 「意地っ張りなきみへ5のお題」より