きみを飾る花を

2016/06/26 桂小太郎生誕祭




 水色の花びらを惜しげもなく広げて、その花は悠然と咲き誇っていた。朝露を引き連れて、きらきらと光るそれは、子供の目にも美しく見えた。
 高杉は、その花の前でしばし考え込み、ざり、と踵を返す。行く先は、松陽の元だ。

「先生」
「おや晋助、どうしたのですか。昨日の授業で分からないところでも」

 若干早い時刻とも思えたが、松陽はいつものようににこやかに迎えてくれる。今までいたどの大人とも違うこの男を、高杉は純粋に尊敬していた。
 しかし、眠い目をこすってまで朝早く起きたのは、昨日の授業で分からないところがあったためでも、松陽に教えを乞うためでもない。いやそもそも、あまり真面目に聞いていなかったのだから、分からないところがあるかどうかも分からない。
 松陽はそれを知っていて、わざと笑いながら訊ねてくる。どうもバツが悪いけれど、それを怒っているのなら、今日はちゃんと授業をきいていよう、と背けた瞳をまた松陽の元に戻した。

「あの、庭の……庭のあじさい、もらってもいいですか」
「あじさい?」

 松陽の顔が、庭の方へ向く。そういえばちょうど見頃のあじさいが、庭には何株も植えられているのだと、高杉の言葉で改めて考える。藍色、水色、紫色、桃色……どれも美しい色をまとっていた。

「構いませんが……どうするんですか? あの花なら、いつも女の子達が生けてくれているじゃありませんか」

 学舎に飾りたいのだろうか? と松陽は思うが、高杉が今までそうしたことはないし、毎日何かしらの花が生けてあるのは、彼も知っているはずだ。
 もちろん剪るのは構わないが、理由を訊ねようと高杉を振り向き直せば、どうしてか視線が泳いでいる。心なしか?が染まって見えるのは、気のせいではないだろう。

「あ、の…………人に、あげたいと、思って」
「……ああ! なるほどそういうことでしたか。野暮なことを訊いてしまいましたね。ふふ、晋助、きみも一人前の男なのですね」
「そ、そうじゃなくて!」
「おや、そうじゃないとは? 私は一人前の男としか言っていませんが」

 ほんの少しのイタズラ心に、高杉はハッとして視線をそらし、そしてキッと睨む。可愛らしい、と松陽は口許に笑みを浮かべ、両の手のひらを向けてみせた。

「冗談ですよ、すみません晋助。とても大事な相手なのですね」
「……アンタのそういうとこ、やだ」

 ふいと顔を背ける高杉に、松陽は腰を上げる。意地悪をしてしまったせめてものお詫びに、一緒に良い花を選んでやろうと、剪定バサミを手に取って。

「さてどの色がいいですかねえ、晋助」
「……青いの……」

 あじさいの群れの前、松陽は高杉と同じ目線にまで腰を折る。
 君たちの目線ではこんな風に見えるのですねと柔らかな声で呟く松陽に、高杉はむずがゆい感覚をどうすればいいか分からなくなった。あまり伸びない身長のことを思い起こさせられるのは、好きじゃない。
 これが他の大人だったら張り倒してやったところだが、松陽の言葉には優しさ以外なにもない。
 高杉はそんな松陽と一緒に花を選び、自らの手で剪る。立派な花びらをつけた一輪だけ、大切そうに。

「晋助、あじさいの花言葉というものを、知っていますか?」

 剪り終えて背筋を伸ばした松陽を、高杉は見上げる。それは知らないという意思表示を持っていた。花々にそれぞれ、象徴するような言葉があるのは知っているが、ひとつひとつ覚えてなんていられない。

「元気な女性、辛抱強い愛情といった意味の言葉があります。きみの大切な人は、そのような方でしょうか」

 高杉は手の中のあじさいを見つめて、どうも松陽は誤解をしているようだと思う。いや――誤解でもないのだが、気恥ずかしい。そんな花言葉があるなんて知ったら、渡しづらくなってしまう。

「それと、もうひとつ。……移り気、という意味も」
「えっ……?」

 松陽の声が、少し低くなる。高杉は思わず松陽を振り仰いだ。花言葉というのは、良い意味だけではないのか。
 移り気、なんて、どうやっても良い風には盗られないだろう。もし相手がその花言葉を知っていたら、喧嘩を売っているのかと思われかねない。

「物事には、良いところもある反面、悪いところもある。でもね晋助。要は捉え方なのですよ」

 せっかく剪ったけれど、渡さない方がいいのだろうかと俯いた時、松陽の優しい声が引き上げる。

「移り気とは、変化、変節。より美しくなるために変わっていく――そう捉えれば、こんなに素敵なことはありませんね」

 高杉は両の目を見開く。
 悪い意味にしか捉えられなかった自身とは違い、言葉を換えて良い意味にしてしまう松陽を、やはりどの大人とも違うと、口許に笑みを浮かべた。

「ま、自分に都合のいいように捉えりゃいいってことだろ、先生」
「そうですね。きみの美しいひとに、想いが届きますように」
「だからそんなんじゃねえって言ってんだろ!」

 やはり松陽に敵うことなどない。もっと早く生まれていたかった。この男と対等に競ってみたかった。
 いや、でもそうしたら、出逢えていなかったかもしれない。このあじさいを贈りたい相手とは。

「晋助、花にリボンでもかけたらどうでしょうか。きっと喜ぶと思いますよ」
「そういうの喜ぶようなヤツじゃねーけど……」
「おやそうですか? 似合うと思いますけどね」

 誰に、と牽制した言葉には、さあ? といつものようにふわふわとした答えしか、返ってこなかった。



 恋とか、そういうものじゃない。
 ただ、生まれたことを祝ってやりたい相手がいるという、それだけだった。
 はずなのに。
 高杉は、速めの速度で歩いていた足を、じゃり、と止めてしまう。視線の先に、渡したかった相手はいた。その両手に、いっぱいの贈り物を携えて。
 途端、自覚する。そして急速に、体中を駆け巡る、ひとつの感情。

「おはよう高杉」

 高杉は俯いて、渡したかったあじさいをぱっと背中に隠す。

「なんだ貴様、挨拶もろくにできんのか。情けないぞ。松陽先生だって、挨拶はしっかりとしろとおっしゃっていただろう」

 祝ってやりたかった相手――桂小太郎は、朝っぱらから相も変わらず説教などしてくる。高杉は悔しさに顔を背け、口唇を噛んだ。

「あ、そうだ高杉、あとでこれ一緒に食べないか。誕生日だからと、たくさんもらってしまってな……」
「……いらねぇ」
「でも、ツナマヨのおにぎりも……」

 桂の手の中には、金平糖や羊羹やまんじゅう、おにぎりがたくさん。きっとこの塾に通っている女子からもらったのだろう。朝早くから来てまでも、桂に渡したかったに違いない。

「それ、お前がもらったんだろ。ちゃんと食ってやれ」

 そこに潜むのが、ただの友情なのか、恋情なのか、分からない。だけど、たくさんあるからといって他人に譲られるためのものではないはずだ。

「……そうか、そうだな、全部……いただくことにする」
「ん……」

 高杉の言葉に桂は思案して、素直に頷く。そこに気がつかなかったとは不覚、とでも言わんばかりに、眉が寄った。

「高杉、ありがとう」
「何が」

 何に対して言われたことか分からずに訊ねれば、

「危うく礼儀を忘れるところだった。その礼だ」

 凜とした笑顔でそう返ってくる。
 カッと、顔の熱が上がった。
 高杉は、自分が、とても子供っぽいような気がしてならない。たった一ヶ月半の間だけど、桂が年上になる。それがとても長い期間で、ひどく歳が離れてしまったようにさえ感じた。
 いちばんに渡したかった、いちばんに祝ってやりたかった、といじける自分が、子供じみていないなんて言えない。
 高杉は、背中に隠したあじさいの茎を、きゅっと握りしめた。

「桂」
「ん?」
「……食いもんじゃなくて悪いけど」

 誕生日、おめでとう。
 小さくそう付けくわえて、桂の前に青色の花を差し出す。茎に結んだ紐は、先日買ったばかりの小銭入れについていたもの。時間があれば、もっといいものを探したけれど、そんな余裕もなかったのだ。

「……お前が?」
「なんだよ、俺がやったらおかしいのかよ」
「そ、そうじゃない、び、びっくりして、その」

 桂は目をまん丸に開いて、差し出されたあじさいを眺めている。高杉自身、がらにもないことをしたとは思っているが、そこまで驚かれるのも心外だった。

「ありがとう……嬉しい、嬉しい、本当に」

 桂はあじさいを笑顔で受け取ってくれる。
 いつもの、凜としたものでも、たしなめるようなものでも、呆れるようなものでもなかった。
 本当に嬉しそうな笑顔に、ついうっかり、だ。

 ついうっかり、口づけてしまった。

「えっ」
「あっ」

 口唇と口唇が、ほんの少し触れ合った、ただそれだけ。
 だが、意図を理解するには充分過ぎるものだろう。まずい、と高杉が思った時には、真っ赤な顔をした桂に、ドンと突き飛ばされていた。

「な、な、な……」

 その拍子に、桂の手の中にあったものすべてが転げ落ちる。塾の誰かが贈った菓子もくるまれたおにぎりも、高杉が贈ったあじさいも。
 失敗した、と思った。
 こんな風に、桂の意思を無視して、押しつけるつもりではなかったのに。しかも、彼を祝うべき大切な日にだ。

「……悪い」

 高杉はそう呟き、転げ落ちた菓子とおにぎりを拾い上げる。泣きたい気分だったけれど、突然口唇を奪われた桂の方こそ泣きたい気分だろう。もしかしたら、初めてだったかもしれないのに。
 贈ったあじさいは、もう受け取ってくれないかもしれないと思いつつも、拾い上げる。それらを桂の手に降ろし、顔を真っ赤に染めてふるふると震える様子に、罪悪感ばかりが押し寄せてきた。
 傷つけたかったわけじゃない。いい加減な気持ちで、口唇が欲しいと思ったわけではないのだと、口を開いた。

「桂、俺……、桂!」

 だけど、高杉が一言告げる暇もなく、桂が体をひるがえす。背中を向けられて、追いかけるだけの勇気は、今の高杉にはなかった。
 小さくなっていく桂の背中を悔しそうに、寂しそうに眺め、しゃがみ込む。

「……なにやってんだ俺……馬鹿かよ……」

 もう今までのようにはいかない。いくわけがない。せめて恋する気持ちを告げてみたかったけれど、もう聞いてはくれないだろう。
 時間が元に戻せるなら、あじさいを剪る前に戻してほしいと、高杉は幼い恋の終わりを感じていた。



 はあっ、はあ、はあ。
 そんなに距離を走ったわけでもないのに、息が上がっている。桂は我に返って立ち止まり、改めて腕の中の花を認識した。
 綺麗なあじさいをくれた相手と、口唇を合わせてしまった。それを思い出してしまって、また顔の熱が上がってくる。

「ど、どう……どうしよう……」

 泣きたい。泣き出したくてたまらない。だけどこんなことで、としゃがみ込んだそこへ、ひとつの、声。

「小太郎?」

 桂は、かけられたその声を振り仰いだ。
 地獄に仏、いや違う天国に仏、これも違う、もうなんでもいい、ともかく天の助けだ、と桂は無防備に安堵した表情を、松陽に向けた。

「先生……っ」
「どうしたのです、泣きそうな顔をして、……おや」

 桂の潤んだ瞳を珍しそうに覗き込んだ松陽は、ぱちくりと目を見開いた。桂の腕の中に、見覚えのある青い花。間違いなく、少し前に高杉が剪っていたあじさいだ。
 なるほどそういうことですかと、微笑ましそうに腕を組む。

「今日は、お誕生日ですね小太郎。おめでとう。皆でお祝いしましょうか」

 たまには授業のない一日でも構わない、いや、友の生まれた日を祝うというのも、大事な学び事だと松陽は楽しそうに笑う。さっそく準備でもと踵を返しかける松陽だが、はてそんなすばらしい日に、桂は何を泣きそうになっているのだろうと首を傾げた。

「先生、あの……」
「何か悩み事ですか、小太郎? ……晋助の、ことで?」

 ゆっくりと付けくわえた松陽に、俯きがちだった桂の顔が勢いよく上げられる。どうしてこの師はなんでもお見通しなのだろうと、桂は困ったように視線を背けた。

「あ、の……た、高杉、が……、その、花を……くれて」
「良かったですね。きみにとてもよく似合いますよ。晋助が、一生懸命選んだものです」

 ああ一緒に選んでくれたのかと桂は気がつく。考えてみればこのあじさいはあの庭のものだろう。高杉が、松陽に内緒で剪ってくるはずもなかったのだと今さら思い至って、どれだけ自分が動揺しているのか自覚した。

「大切なひとに贈りたいのだと言って……言ってはいませんでしたが、きみ宛てだったんですね、小太郎」
「先生……どうしたら、いいでしょうか……」
「どう、というのは?」
「く、口唇を、その、触れ、合わせる、というのは、こっ、恋仲の者同士がするものだと、思っていたんですがっ……、その」

 桂らしくなく、明瞭な言葉にならない。松陽は目を丸くして、瞬いた。高杉との間に何があったのかを悟るにはそれで充分で、おやおやこれは、と思わず笑みがこぼれてしまう。ずいぶんとマセたお子様たちだ、と。

「まあ、普通はそうですねえ。……小太郎、晋助と?」

 桂の?が、分かりやすくさっと染まる。
 また思い出してしまって、桂は口を覆った。そうだあれは口づけだ。ほんの少ししか触れなかったというのは問題ではない、少しでも触れたということが、問題なのだ。
 どうしよう、と小さく呟く。泣き出してしまいたい、とこみ上げてくるものがあった。

「小太郎、嫌でしたか?」
「いえ、少しも」

 訊ねてきた松陽に、桂はそう即答して首を振る。
 嫌なわけがない、そんなわけがなかった、だって、ずっと、密やかに。
 密やかに、高杉のことが好きだった。
 恋という意味で、高杉晋助が好きだったのだ。

「嫌な……わけが、ないんです……」
「では、どうしようも何もないじゃないですか。なぜ悩んでいるのか、分からないんですが」
「だ、だって俺、びっくりして、高杉を突き飛ばしてしまって! ど、どういう顔で、逢ったらいいのか……!」

 高杉の想いを認識するより早く、体が動いてしまっていた。
 逃げ出すつもりはなかったと今なら思えるのに、あの時はただただびっくりして、思わず高杉の体を押しやって突き飛ばしていたのだ。
 同じ気持ちなんだと言おうにも、どんな顔をすればいいのか分からない。嬉しくて恥ずかしくて、逃げてしまったことが悔しくて、情けない。泣き出してしまいたいと、触れた口唇をもう一度覆った。

「なんて……応えたらいいのか……分かりません、先生……」
「うーん、そうですねえ……私もこちらの方面には何か教えられるようなものもないのですが……」

 小さなふたりの小さな恋を、どう手助けしてやろう、と松陽は首を傾げる。すがるような瞳を向けられて、苦笑した。

「小太郎、あじさいの花言葉を知っていますか」
「え、花言葉……? ……えっと、確か……変節……? すみません、あまり素養がなくて……」

 間違っているかも、と困ったように首を傾げた桂に、松陽は笑う。なんて優秀な生徒なのだろうと、感動さえした。

「そう、変わること。小太郎、晋助ならきっと、これで気づいてくれますよ」

 いいアイディアです、と人差し指を立てた松陽に、桂の顔が嬉しそうなものへと変わっていった。



 今日は小太郎の誕生日なので、と、松陽の提案で今日の授業は近くの原っぱへ出かけることになってしまった。野に咲く花や薬草を知るのも、生きていく上で必要な知識で、糧になっていく。
 授業をサボることはいけませんという松陽の教えで、高杉は陰鬱な気分で皆のところへ足を向ける。
 そこには当然、今日の主役である桂もいるはずだ。
 どんな顔をしたらいいのか分からない。
 まずはじめに謝らないといけないだろうか、思い出させない方がいいのだろうか、とぐるぐる悩んで、騒がしい輪の傍まで歩んだ。

「おっせーぞ高杉ィ」
「全員そろいましたね、では出かけましょうか」

 何してやがったんだと悪態をついてくる銀時と、それを何でもないように受け流す松陽と、その陰に、桂の姿。一瞬視線が合った気がしたけれど、すぐにぱっと外される。
 ああやっぱり怒っている、と頭を抱えたくなったその時、気づいた。
 ふよん、と揺れる桂の髪。高くその髪を結い上げるその白に、見覚えがある。

「え……」

 昨日までと違う。朝……あじさいを贈った時とも違う。

 ――――あ。あ、あっ……!

 あんぐりと口を開けたら、恥ずかしそうにちらりと見やってくる桂と視線が重なる。かあっと?の熱が上がって、こみ上げてくるものがある。

 桂の髪を飾るのは、あじさいに結んでいた白い紐。

 つまりは受け取ってくれたのだ。
 花も、気持ちも。
 高杉は今すぐ駆け寄りたい衝動を抑え、原っぱへと出かける皆の、いちばん後ろをゆっくり歩く。皆の歩調に合わせていた桂の歩みがだんだんと遅くなり、高杉と同じペースになった。

「か、桂、あのさ」
「高杉、まだ……ちゃんと聞いてない」
「あ……うん、悪い」

 松陽たちとはぐれないようにしながらも、ふたりでゆっくり歩き、まだちゃんと告げ合っていなかった言葉を引き出そうとする。
 それでも高杉は、思いがけず叶いそうな恋を言葉にする心の準備ができていなくて、ちらちらと桂を見やるばかりだ。
 高杉、と呆れたようにも期待しているようにも名を呼んでくる桂にドキドキしつつ、ようやっと口を開く。

「……それ、似合うな」
「そ、そうか?」

 結んだ紐の端を、くすぐったそうにもてあそぶ桂。ほんのり染まった?に、やっぱり胸が高鳴った。

「こ、今度……ちゃんとしたの贈るから」
「俺はこれで構わないがな。お前の小銭入れについてたやつだろう?」

 気づいていたのかと、高杉は目を瞬く。なおさらちゃんと新しいものを贈ってもやりたいが、そんなところまで見ていてくれたのかと嬉しい気持ちが今は勝ってしまった。

「桂」

 隣を歩く桂の手に、そっと触れる。指を絡めるまではまだできなくて、幼い幼い、恋心。

「……好き」

 まさか自分が、桂相手にこんな気持ちを抱くなんて、こんな言葉を言うことになるなんて、思ってもいなかった。
 桂が手を握り返してくれて、泣いてしまいたい衝動に駆られたけれど、どうにか我慢した。泣いてしまえば、桂の顔が見られなくなる。

「俺も、好きだよ高杉」

 こんなに綺麗に笑ってくれる桂の顔を、見逃していいはずがない。彼を祝うつもりが、幸福をもらってしまった。

「もっかい言うけど、誕生日、おめでとう」


 せめてその半分くらい、幸福を返せていればいい。そう思って、高杉は桂の手を強く握りしめてゆっくり皆のあとを追った。