華家



おそろい


「おそろいに見える……」

 千景が、少し不満そうな声を上げた。それは至の耳に届くように言ったのだろうし、これは絡んでいいはずだと、とげとげしい声で千景を呼んだ。

「せーんぱい。それの何が嫌なんですか」

 幸に言いつけますよと付け加えると、さらに不機嫌そうな視線が返ってきた。
 まったく何が嫌だと言うのだろうか、ジャケットの襟が、至のシャツと同じような柄だということが。

「まったく同じ形じゃないでしょ。諦めてくださいよ」
「別に嫌なわけじゃない」
「そんな顔で言っても説得力ないですー」

 今日はブロマイドの撮影だ。団員が増えたことで、物販にももっと力を入れろという鬼の経理からのお達しだ。客ウケするためには、そんな不機嫌顔で挑んでもらっては困る。
 加えて、少しばかりじゃなく、寂しい。
 千景は嫌なわけじゃないと言うが、乗り気でないのがその顔から窺える。

(なんでそんなに嫌なんだよ、恋人だろ、クソが)

 恋人である至と〝おそろいに見える〟のが、なぜ嫌なのか。嫌いな色なのか、それともデザインか。もしや至の衣装が似合っていなかったとか、そういう理由なのだろうか。
 しょんぼりと眉を下げると、察したのか千景がそっと指先を握ってくる。

「茅ヶ崎、ちょっと」
「え?」
「髪のセット崩れたから直したい。手伝って」

 撮影の準備はもう少しかかるらしく、千景に手を引かれて控え室へと戻った。髪なんて乱れていないのに、至をなだめるために戻ってきたのが見え見えだ。

「茅ヶ崎、変な誤解するなよ」
「先輩、俺は別に怒ってなんかないので……」
「それが誤解だって言ってるんだよ。嫌なわけじゃないんだ」
「でも、おそろいっぽいの嫌なんでしょ」

 メイク台の前の椅子に座らされたと思ったら、千景が目の前にしゃがみ込んだ。こんなふうに千景を見下ろす姿勢になるのはめったになくて、至の胸が鳴った。

「違う。浮かれてしまいそうなのが嫌なんだ」
「……え?」
「春組で同じようなデザインになるのは、家族みたいで嬉しい。……それ以上に、柄が違ってもお前とおそろいに見えるのが、なんというか、照れくさくて困ってる」

 至はぱちぱちと目を瞬いた。あんなに他人との間に線を引いていた千景が、そんなふうに春組を受け入れて、大事にしているなんて。
 それに加えて、至とのことを照れくさく思うほど、彼の日常に食い込んでいるなんて。

「先輩……」
「だから、嫌なわけじゃない。こういうのは、慣れてないから、どういう顔をしたらいいのか分からないんだ」
「緊張、してます?」

 少し、と千景が苦笑する。公演のポスターを撮るのとはわけが違うようだ。公演のならば、役になりきればいいが、ブロマイドはそうはいかない。卯木千景として、撮影に挑まなければいけないのだ。

「じゃあ……おまじないしてあげます」
「おまじない? あんまり信じないタチなん――」

 至は椅子に座ったまま腰を折り、千景へと向かって降下させた。
 そうして触れた唇は、いつもの温かさ。
 右端に、左端に、真ん中に、そっと触れる。
 おまじないとは言ったが、ただ至が千景に触れたかっただけ。千景もそれが分かっているのか、黙ってされるがままでいてくれた。

「俺も、やっぱ照れくさいですよ。でも、嬉しい気持ちの方が大きくて」
「おそろいっぽいの、嬉しい?」
「自分が、そんなので浮かれる男とは思いませんでしたけど」

 ふぅん、と千景は少し考え込んだ様子だったが、緊張の方はどうにかなったようだ。至はホッと息を吐いた。

「じゃあ、今度何か買いに行こうか。おそろいっぽいの、じゃなくて、ちゃんとしたおそろい」
「は?」
「そう、指輪とかね」

 千景はそう言って、左手を広げて薬指なんか指してくる。それの意味が分からない朴念仁ではなくて、至はボッと顔を赤らめた。

「も、やだこの人……」

 まさかそうくるとは思わなくて、心の準備が少しもできなかった。

「おそろい、嫌なのか?」
「……嫌なわけじゃないです、照れくさくて困ってる」

 先ほどの千景と同じ言葉を返せば、彼はふっと笑った。緊張しているなどと言っていた殊勝な男はいったいどこへやら。

「茅ヶ崎」
「はい?」
「大好きだぞ、お前のこと」
「知ってます」

 控え室で約束みたいなキスをして、二人は再度ブロマイドの撮影へと戻っていった。

2018/07/01
イベント無配
  
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