華家



その不器用な情熱に


 十座はカップに残った、甘ったるそうなドリンクを飲み干して、膝の上で拳を握った。
「好きでもねぇ男と寝るとか、絶対アンタの負担になると思って、言えなかったっす。……望んでもいいなら、何度だってアンタを抱きたい。恋人は無理だって分かってる。だから……あの日より、もっとちゃんとするんで……左京さんに触りてぇ」
 左京は顔を上げて、視線を泳がせる。こんなところでする話じゃなかったなと思うが、幸い周りのテーブルは離れているし、先ほどまでいた隣のカップルは、観劇に向かってくれた。
「左京さん」
 何も言わない左京に焦ったのか、十座が低い声で名を呼んでくる。あの日耳元で呼ばれた音とは違って幼くて、逆に胸が締めつけられた。
「ここ、出るぞ。食い終わったんだろ」
「あ、……っす」
 席を立った左京に、十座は慌ててトレーにケーキの皿をまとめる。返却口に返し、左京を追ってきた。
「左京さん、あの、俺」
「いいから、しろ」
「え?」
「抱きたきゃ抱けって言ってんだ。この間も言ったが、お前を殴り倒すくらいの拳はある。本当に嫌なときは、ちゃんと言うから。お前ももう、言いたいこととかやりたいこと、溜め込んでんじゃねえ」
 同じ轍を踏む気か、と、左京は振り向かないままで答える。もう後悔はしてほしくない。自分と似ている、自分と違う男には。
 ――――兵頭に抱かれてやんのは、後悔しっぱなしだった昔の俺を……そうやって昇華してえのかもな……まったく、自分の狡さには、ほとほと嫌気が差すぜ。
 自嘲ぎみに息を吐いた左京の指先を、十座が強く握りしめてくる。
 街中でなにをやっているんだと思っても、ここは天鵞絨町、最終的にはACTでごまかしてしまえる。
「兵頭?」
「抱きてぇ」
 許可を出した途端に、調子に乗り出すのは変わらないなと、左京は隠しもしない十座の欲望に、ため息をついた。
「……ったく、ちったぁ隠せ」
「……アンタは扱いが難しいな、左京さん。我慢するなって言ったり隠せって言ったり。どっちなんすか」
「と、時と場合と場所を考えろっつってんだよ!」
「一応、周りに誰もいねぇことは確認したつもりだ」
「分かったから離せッ」
 握られた指先を振り払って、火照る頬を扇ぐ。想いも欲も、やっぱりまっすぐ向かってくる。
 突き放し切れないのは、その情熱にあてられてしまったからだ。
 芝居に向けるのと同じ強さで、自分に向かってくる素直な気持ちは、無碍にできない。
「……行くぞ」
「え、どこ……」
「お前が俺を抱けるとこだよ、察しろ、エロガキ」
 顔だけで振り向いて、十座を誘う。
 自分に向かってくる好意なんて、ないと思っていたけれど、それは間違った思い込みだったようだ。十座は嬉しそうな顔で笑い、隣に並んでくる。
 いつか飽きる時がくる。
 その時は恐らく落ち込むのだろうけれど、恋をするよりはずっと楽だなんて、歩く速度に合わせて指先を触れ合わせ、足を踏み出した。




 力強い口唇が押し当てられる。ぺろりと上唇を舐められて、うっかり開いたそこに、遠慮なく舌先が滑り込んできた。
 油断も隙もねえなと思うが、ベッドの上では油断している方が絶対に悪い。
 入り込んできた舌先を仕方なく受け入れて、左京は十座のしたいようにさせてやろうと力を抜いた。
「ん……」
 舌を絡め取られ、きつく吸い上げられる。瞬間、腰から競り上がってきたものが、快感だとは認めたくなかった。
「は、ふ……んぅ」
 悔しさに軽く舌を噛んでやれば、上顎を舐められ返り討ちに遭うだけ。
 十座は角度を変えて、何度も解放をしそうになってはまた捕らえてくる。うまく呼吸ができない、と腕に爪を立てた時、ようやく離してくれた。
「はあっ、っは、はあ、っん……、ん……おま、え、な……」
「悪い、左京さん……この間より反応よくて、つい……」
 湿った吐息とともにそう呟いてきた十座に、左京の熱が上がる。
 確かに先日の行為よりは、慣れた分だけ反応はしやすかったかもしれない。
 だがそれが、相手にダイレクトに伝わってしまっていたことが、どうにも恥ずかしい。
「左京さん……」
 ちゅ、と音を立てて首筋を吸われる。
 指先が喉を覆うタートルネックを剥ぎ、その隙間に舌先が入り込んだ。柔らかな部分を捜し当てて、吸い上げる口唇が憎らしくて、だけど声が震えて、まともな説教にならなかった。
「は……あ、っあ……」
 それで調子に乗ったのか、十座は両手で左京のシャツをたくし上げてくる。腹を撫であげながら、ゆっくり、ゆっくりと。肌の感触を確かめるように、温度を交わらせるかのように。
「っふ……ぅぁ」
 上昇してくる手のひらは、やがて胸にたどり着く。ふんわりと盛り上がるわけでもない平らな胸を、十座は両方の手のひらで撫でてくる。
 何がそんなに楽しいのかと思っている隙に、指先が小さな粒を押し潰した。
「んっ……あ、馬鹿、んなとこ……っ」
 つまみ上げ、捻り、左京の反応を見ながら徐々に力を強めていく。
 痛痒い感覚が左京を包み込み、呼吸の間隔が短くなっていった。
「これ、よくねぇのか……?」
 ぐにぐにとこね回しながら、十座は戸惑った様子で訊ねてくる。それは別に意地の悪いものではなく、純粋に分からないようなのだ。
 だがしかし、この感覚が気持ちいいのかなんて分からないし、たとえそうだとしても簡単に認めたくない。
「さっきより硬くなってきてんのにな……」
「なっ……あ、ぁ……!」
 なに馬鹿なことを口走ってくれるのかと、頬を紅潮させた隙をついてか、十座はその硬く立ち上がった乳首を口に含んだ。
 左京は思わずのけぞって声を上げる。のけぞったせいで十座に胸を押し当ててしまうことになるのだが、背中を抱かれてしまって、もうどうにもできない。
「う、あ……っ」
 ぴちゃりと濡れた舌で転がしたかと思えば、ぢゅうと強く吸い上げられる。
 予想しなかった感覚に体は震え、声が口をついて出てくる。
 指で、舌で、歯で、口唇で遊ばれて、そこは普段にない硬さを主張し始めた。



2017/10/08
【装丁】A5表紙FC/32P/300円/R18 【書店】とらのあな様 【あらすじ】10/1刊行の色の曼珠沙華のその後です。初めて体を繋げたあの日以来、十座が何もしてこないことに戸惑い、左京は思いきって十座を連れ出す。「期待外れだったか、もうその気がなくなったのか」と問いかけた左京に、十座はため息を返した。
  
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