華家



秘密が秘密でなくなった


 秘密がある。
 誰にも言えないものだ。秘密とはそういうものだが、これは絶対に知られたらいけない秘密。

 茅ヶ崎至は、いつものようにソファの上でポータブルゲーム機で大好きなゲームに勤しんでいた。
 が、どうにもこうにも上の空。取れるはずのアイテムを取り損なうし、雑魚キャラの攻撃が当たってしまうし、ミッションの課題を一つ忘れていた。
 それもこれも、秘密の原因が隣に座っているからだ。
 卯木千景。会社の先輩であり、劇団の仲間であり、ルームメイトであり、片想いの相手。
 片想いの、相手。

(詰んだ)

 この際ゲームはどうでもいい。いやどうでもよくはないが、この体の強張りをどうにかしたい。
 なぜよりにもよって、こんなに攻略の難しそうな男に惚れてしまったのか。

(いや攻略どうこうじゃねーし。最初から望みねーわ)

 同じ会社、同じ組、同じ部屋、というだけで、一緒にいる機会が多くなる。嬉しい気持ちと、怖い気持ちが同時にやってくるのだ。
 これ以上好きになったらまずい。
 ただでさえクリアできそうにない課題なのに、更に積んでどうするのだと、意識しないようにしているのだが。

「茅ヶ崎、どうしたんだ?」
「へっ?」
「指の動きにキレがないみたいだけど。何かあった?」
「……秘密です」

 パソコンで情報集めだかなんだかをしているくせに、千景はめざとい。見られていたという恥ずかしさと、なんで見てんのというむずがゆい嬉しさ。まさかあなたのことが気になっていますなんて言えやしない。

「ふぅん、秘密なんだ」
「いいでしょ、先輩だっていっぱい秘密あるんですから。噓の出張とか組織のこととか」
「ハハッ、どれもお前が知ってるじゃないか。厳密には秘密じゃない」

 言って、千景は楽しそうに笑う。そうして、至を振り向いてきた。

「確かに、もっとすごい秘密あるけどね」

 千景は本当に秘密が多い。知っている秘密より、知らない秘密の方がきっとたくさんなのだろう。

「なんでドヤ顔してるんですか? それなら俺にももっとすごい秘密ありますよ。超重要機密事項。トップシークレトってヤツ」
 それが悔しくて、対抗するように口にしてみた。千景が好きという事実は重要な秘密なのだから、噓ではないが。

「俺のだって重要だよ。もしかしたら世界レベルかも」
「規模デカすぎワロタ」
「茅ヶ崎の秘密に比べたらな」
「はァ? 比べるもんですかそれ」
「まあ俺の秘密は、茅ヶ崎のことが好きってだけなんだけどね。俺にとっては世界レベルだ」
「えー奇遇ですね、俺も世界レベルで先輩が好きなんですけど」

 うっかりそう返してから、沈黙が流れる。ん? と首を傾げることさえ忘れた。

「……奇遇だね」
「……ほんとですね」
「付き合う?」
「そうしましょうか」
「団員のみんなには秘密かな」
「まあそうですね。ふたりだけの秘密にしましょ」
「分かった。じゃあそういうことで」
「よろ」

 至はゲームの課題をどうにかこうにかクリアして、ため息をつきながらテーブルに置き、腰を上げた。

「ちょっとコーラ取ってきます」
「いってらっしゃい」

 そうして部屋を出て、ドアを閉める――のと同時に、その場にしゃがみ込んだ。

「ッあ~~マジか~~」

 まさかこんなことになるなんて。秘密が秘密でなくなって、新しい秘密ができた。しかも、好きな人とふたりだけの秘密の約束。
 心臓が速い。顔が熱い。あんなふうに返してしまったけれど、本当は嬉しくてしょうがない。

「至……こんなところでお昼寝……?」

 知った声が降ってくる。密だ。至は顔も上げられないままにまあそんなところと返す。

「なら……オレもここで寝る……至の傍は心地いいって、千景も言って……た……し……すぅ」

 至は幸福さに声も出せずにうずくまったまま、頭を抱える。部屋の中で、千景が同じように「マジか」と頭を抱えていたことも知らずにだ。



2018/11/24
イベント無配
  
designed