華家



三センチ隣にある肩



 ダブルベッドは狭いよね。
 隣ですやすや眠る男は、あろうことか劇団の紅一点、付き合ってもいない女性にそんなことを言ったらしい。セクハラでしかない、デリカシーのないジョークだ。
 なんでこんな男に惚れてしまったのだろうと、至はため息をつく。
 確かにダブルベッドは狭いかもしれない。
 事実、今、少し狭い。
 彼の――卯木千景の肩まで三センチほど。
 眠るのに困るわけではないし、そもそもダブルの部屋を取ってまで外泊する時は、眠るのが主目的ではない。
 何をどう間違ってこの恋が叶って、昨夜のような濃密な夜を過ごすことになったのか。
(あんな格好させられるなんて)
 昨夜のことを思い出して、頬が火照る。脳が沸いていたとしか思えない格好をさせられても、ベッドの広さはまだ余った。
 だけどそれは、ほぼほぼ密着していたからだ。
 こうして体を離し、手足を伸ばしていると、ほんの少し狭いと感じる。
 だがそれも一八〇センチ近い大の男二人であるせい。
 千景はこれを基準にして、いづみににそんなことを言ったのだろうか。彼女とならばそれほど狭いとは感じないだろう。
(バレたらどうすんだろ、ほんとデリカシーない。加えてノーロマン。なんでこんな人好きなの俺)
 隠し通したいわけではないけれど、どうしても後ろめたい。
(困るほど狭くないし、どっちかっていうと広いと困るっていうか)
 そう、この恋に浮かれた状態では広い方が困る。三センチ隣にある肩にくっつくのに、理由が必要になってしまうからだ。
(落ちそう、とか。そんなに近くで寝てる方が悪い、とか。そういうの、言えなくなるじゃん)
 無防備に眠る千景をじっと眺め、やっぱり寂しくなって、寝返りを打つふりをして、千景の肌に肩で触れた。
「こら……乗るな茅ヶ崎」
「ダブルベッドは狭いですから。っていうか起きてたでしょ先輩」
 体を翻して三センチの隙間を埋めようとすれば、必然的に千景の上に乗り上げる形になる。
 それに驚いた様子もなかった千景は、やっぱり起きていたのだろう。
「そりゃ、あんなに熱い視線送られたらね」
 千景の腕が背中に回って、ぐいと胸の上に引き上げられる。乗るなと言っておきながら、言葉と行動が合っていない。
「広くなるように、くっついてようか?」
「もうくっついてるじゃないですか……」
「もっと近く」
 背中を抱いていたはずの手が、ゆっくりと撫でながら下に降りていく。目的地は分かっていて、至の頬がさっと染まった。
「昨夜あんなにしたのに」
「できない?」
「できます!」
 ふふんと笑う千景に、ついうっかり売り言葉に買い言葉。しまったと思っても、体の位置を変えられた後ではもう遅い。
 まあダブルベッドは狭くないこともないし、いいか、と千景の背中に腕を回す。


 一通りの行為を終えてから後悔するのは、もういつものことだった――。

2018/10/07
イベント無配。診断メーカー+アンケートより。
  
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