華家



奥まで見せて、そのあとは


 痛い。
 俺はホテルのベッドの上でうつ伏せになったまま、うなるように息を吐き出した。
 死ぬほど痛い……っていうか怠い。
 腕が上がらないどころか、指一本、動かす気力が残っていない。自分の体力がみそっかすなのは知っていたけど、正直ここまでないとは思ってなかったわ。
 死ぬほど痛い。
 死ぬほど怠い。
 死ぬほど幸せ。
「茅ヶ崎、大丈夫か?」
 上の方から声をかけられる。先輩だ。まあ昨夜からこの部屋には俺と先輩しかいないんだから、確認の必要さえないんだけど。
「大丈夫じゃないです……」
 思っていたより声が掠れていて、自分でも驚く。そんな俺を心配そうに見下ろして、気まずそうに髪を撫でてくれる先輩。ぶっちゃけると恋人、だ。

 昨夜、初めて先輩と最後までシた。

 信じられない、あんなことになるなんて。
 お互いの気持ちは告げあっていたし、たまにデートみたいなこともしてたし、キスだってしてた。触れるだけのも、舌を絡める深いヤツも。
 体を触り合うくらいはあったんだ、今までも。
 先輩の手が俺のネクタイをほどいて、ボタンを外して、素肌に触れて……唇の痕をつける。俺も、慣れないながらも精一杯先輩のマネをして、何度か所有の印をつけてきたんだ。
 ただ、最後までってのは、なかった。
 単に俺が勇気を出せなかっただけなんだけど。だって先輩の、なんか……その、大きい気がしたし、あんなの入らない、入れられない、絶対に痛いって思ってた。
 口には出さなかったけど、俺に触れてる先輩にはまざまざと伝わっていただろう。キスをして、肌に触れて、イかせてくれて、それで終わり。

 でも、本当は分かってた。先輩が、俺を待っててくれてることくらい。

 だから昨夜、勇気出してみた。最後までしてほしいって言ってみた。
 後悔は、したようなしてないような。
 やっぱね、大きかった。無理。マジ無理って、何度思ったことか!
 だけどそれ以上に、嬉しかったんだよなぁ……。
 先輩が俺の名を呼ぶのさえ泣きそうになるくらい幸せで、途中から痛いのなんか忘れてしがみついてた気がする。

「茅ヶ崎、腕。あぁ……上がらないか」
 先輩が、俺の腕を持ち上げて濡れたタオルで拭いてくれる。温かいタオルが心地良くて、睡魔たんがやってきそう。
 ゆっくりと体を裏返されて、背中のあとは胸とお腹。その次は脚かなー。先輩絶対に全自動俺を風呂に入れてくれる機になれる。
「眠かったら寝てていいぞ」
「やです……」
「なんで」
「もったいない」
「なにがだ」
 このノーロマンが。いい加減にしろ、そんな困った顔しても、……かわいいな。
「……だって、先輩が俺に優しくしてくれるの、すごいなって」
「は?」
「昨夜からずっと、優しいから、寝るのもったいないんですよ。見ていたい」
 俺の体を拭いていた先輩の手が止まる。二秒おいたあとに、先輩の顔がボッと染まる瞬間を見てしまった。

 え。
 ちょっと待って何それ激レア!!

「先輩待って今のもう一回」
「しない」
「いいじゃないですか、ケチ」
「うるさい。だ、だいたい、優しくするのなんて当たり前だろ……お前の方が負担大きいんだし。その……昨夜は正直、浮かれていて、無理をさせたと思う」
 うるさいとか言いながらしっかりデレてくれる。っていうか、先輩浮かれてたのかあれ……。

 キスがいつもより長かったのも、口数が少なかったのも、腕を掴む力が強かったのも。
 声出して、我慢するな、大丈夫だから、ここ掴まって、奥まで見せて、……って、荒い吐息と一緒に言ってたのも。

 あんな先輩、確かに初めて見たけど。よ、欲情? されてた? マジで?
 あ~……アリだわ、セックス。
 痛いって思ってたし実際痛いし、めちゃくちゃ怠いけど、あんな先輩が見られて、終わったら終わったでこんなに優しくしてくれるなら、アリ過ぎでは?
 先輩はどうだったかな。俺本当に何もできなかったけど。
 ……やべ、落ち込んできた。おちんこでるとかじゃなくて、マジで。最初だし仕方ないって思う反面、初めてなんだからちゃんとしとかなきゃいけなかったんじゃ?
 先輩がもう面倒って思ってたらどうしようこれ。いや、逆の立場だったら絶対に面倒だわ。わざわざタオルで体拭くとか、しかも痛くないように自分が位置変えるのな。

「茅ヶ崎、立てるようになったらお風呂入ろう。ちゃんと洗ってあげるから」
「え、あ、は、はい……まだちょっと、無理、かも……」
「分かってる、少し寝てろ。隣、いいか? 何もしないから」
 何もしないの? そういうものなの?
 一応頷いたけど、先輩はなんでか気まずそうだ。隣で寝ることなんて今までにも何度かあったのに。広くないベッドで一緒に寝て、ドキドキしてんの俺だけ? なんで先輩そんな隅っこにいんだよ。
 さっきまでの幸せ気分が、ちりぢりになっていくみたいな気分だった。俺、せめて少しくらい努力しなきゃいけなかったんじゃないのか。
 つ、次とかあるかな……挽回できるか?

「あ、の……先輩」
「ん?」
「俺、ちゃんとできてました? どっかおかしくなかったですか……」
「なんの心配だ、馬鹿。……ちゃんともなにも、我を忘れるくらい、夢中になったよ」
 そう言って、先輩は俺の髪を撫でてくれる。よかった……、先輩も気持ちよくなってくれたんだ。噓、とか、ではないと、思いたい。

「茅ヶ崎」
「は、はい?」
「俺を受け入れてくれて、ありがとう」
 は~~? なんだそれ。なんでスマホ構えてないときに限ってハチャメチャに可愛い笑顔とか向けてくれんのこの人!
 悩むのやめよ、この人は俺のこと大好き過ぎる。気持ちよくなかったわけない。だって俺がそうだから。次頑張ろ、次。
「先輩、俺を待っててくれてありがとうございました」
「……うん」
 次は、俺が先輩を気持ちよくしてあげたい。技術はすぐに追いつきやしないだろうけど、初めてよりは上手くできるはずだから。レベラゲとか俺の得意分野だし。
 ハハッ、楽しみにしてろよ先輩このやろう。



2018/11/17
お題は「奥まで見せて」
  
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