華家



月岡紬のオトし方


 劇団の合宿で露天風呂とは贅沢なものだ。設備としては古いものもあるが、唯一の売りなのか、温泉の方はなかなかに広い。
 おかげで、男十人で湯船に浸かることにもなってしまったのだが、それはまあいい。
 個人的なことを言えば、紬の裸体なんて他の連中に見せたくなかったのだが、仕方ないと何度も言い聞かせて、みんなで入ったこの温泉。
 隅の方に設置してあるスタンドシャワー。諸事情で温泉に浸かれない人のものだろうか。男でもプライバシーの保護は重要だ、とでも言わんばかりの仕切りと、大事な部分を隠してくれる扉は有り難いものだろう。
 それは決して、こんなことを想定して作られたものではないはずだ、と思いながらも、万里は声を詰まらせて、乱れた髪をかき上げた。
 ――――マジ、かよ……。
 仕切りにもたれた万里の足の間、紬の頭がある。
 紬を連れ込んだのか、紬に連れ込まれたのか分からないこの状態。
 だがまさか、紬が口でしてくれるとは思っていなかった。体を合わせるようになって、初めてだ。
 ピチョン、ピチョン、とシャワーノズルから滴ってくる水で、浴衣は濡れて乱れる。そんな万里の浴衣をかき分けて、脚を押さえ、紬は万里を愛撫してくれた。
 躊躇っていたのはほんの数秒で、指先が戸惑っていたのも本当に最初だけで、今では万里をすっぽりと覆ってしまっている。
 上手いだとかそうでないとか、そんな問題ではない。また、誰かと比べられるほど、された経験も多くはない。
 万里にとって今重要なのは、紬がしてくれているという事実だけだ。
 ――――舌、かわいい……っつか、えろ……。
 筋をなぞるようにちろちろと動く舌先に、意識を持っていかれる。額から滑り落ちてきた汗が目に入り、しみる。濡れてしまった浴衣でそれを拭い、吐息した。
「んッ……はあっ」
 紬の舌先が、先端をくすぐってくる。万里は思わず腰を揺らして足の筋肉を強張らせた。
「……っは……」
 落ち着いたと思った途端、ぞわりと背筋を這い上がってくる快感。
 万里は思わずのけぞって、夜空を見上げた。紬の舌が、根元から先端へと上ってくるのが分かる。そして下り、口唇で食み吸い上げる。
「んんっ……、い……ッあ」
「万里くん……気持ち良い……?」
 ちゅぱ、と恐らくわざと音を立てて口唇を離し、紬が見上げてくる。その視線だけでもイッてしまえそうなほど、艶めいた瞳。万里の体液と紬の唾液とで濡れた口唇は扇情的で、万里はこくりと唾を飲んだ。
「すっげぇ……いいっすよ、紬さん……。いったいどこでそーいうエロいこと覚えてくんだか……」
 はあ、と大きなため息を吐きながら、紬の髪を撫でる。汗で湿った髪はいつもより指通りが悪く、だけど紬に触れている実感が心地良い。
 万里はぺろりと自分の口唇を舐めてみせ、情欲を隠しもせずに紬へと伝えた。
「万里くんの真似してるだけだよ。きみの舌、いつもエッチなんだよね……こうやって、さ」
「んぅッ……」
 尖らせた舌先で、筋をたどり軽く歯を立てる紬。そうする間にも視線は万里から外さないで、じいっと万里の顔を眺めているようだった。
「はあっ……は、紬さ、ん、ちょっと……待って、なあ」
 愛しそうに両手で握り込み、ちゅ、ちゅ、と口づけ、すっぽりと覆う。
 万里の真似をしているだけだという紬の手管に、万里の息が上がる。つまり紬は、いつもこんな風に感じてくれているのかと。
 確かにつたない手つきではある。だがそれを上回るほどの優しさで、万里を飲み込んで、吸い上げて、こすり上げて、歯を立てる。
「ん、んんっ……ア……」
「う……ん、む、んん……」
「つ、つむぎさん……なあ、ちょっと、も……離してくんね? 口、汚れっからさ……っ」
 紬の髪を撫でる手に、思わず力がこもる。正直そんなに保ちそうになくて、万里は紬を引きはがそうと試みた。
「やっ……駄目……」
 だけど紬は、引きはがしてもすぐに食らいついてくる。紬の歯が先端に当たって、万里の快感中枢を刺激した。
「っ紬さん、駄目って、こっちのセリフ……っ、なあって、待っ……て、んッ……!」
「やだ、万里くん、ちゃんと、イッて……」
「や、口じゃなくても、イケっし……あ」
 じゅ、としゃぶりついてくる紬を再度引きはがそうとして、万里は気づく。紬の片手が、万里ではなく自身のものを握っていることに。浴衣から覗く太腿は大きく開かれ、下着から顔を出す紬自身が目に入った。
 ――――うっわ……なにそれ、紬さんがオナッてるとこなんか、ぜってー見られねぇと思ってたのに……!
 カアッと頬の熱が上がる。できればもっと見やすい体勢の方が良かったけれど、贅沢は言わないでおこう。
「ん、んんっ、ん、む」
 口唇と舌の動きに合わせ、紬の指先は自身をしごき上げる。濡れていく指と、ゆらゆらと揺れる腰。万里のものと自分のもの、どちらに集中しようか迷うような瞳。
 万里を煽れば、その分自身の刺激に繋がっているようだった。万里を舐め上げるたびに、ず、と紬の膝が石の床をこする。
「んぁ……っんふ」
 万里はその様子を目にして、ニィッと口の端を上げた。
「紬さん、すっげぇエロい……俺のしゃぶってて、感じちゃったんだ?」
「んっ」
 万里の指先が、紬の耳元をくすぐる。弱いところのひとつだ。肩がビクリと揺れたのを見て、万里は頬を撫でてゆっくりと紬の顔を離させた。
 潤んだ瞳と、上気した頬、万里の体液で汚れた口唇。乱れた浴衣の隙間から覗く肌は、欲のレベルを上げるのに充分で、今すぐにでもかき抱いて引っかき回したい。だが、それは紬も納得しないだろう。
「万里くん……俺のじゃ、駄目なの……? ごめん、俺……下手だよね」
「そーじゃねえって、もう。よすぎてもうイキそうだから離してっつってんの」
「でも、俺っ……ちゃんと最後まで」
「なあ紬さん、俺のイくとこ見たくねぇ? もっと近くでさ」
 言って、紬の頬を撫でたその指先で、自分自身のラインをなぞる。
 が、自分で慰めるつもりはなかった。紬によってここまで熱を持ってしまったものは、紬に解放してもらいたい。
「その体勢より、手でやった方が俺の顔見られるぜ? 俺だってどうせなら、イくまで見ててほしいしさ」
「え……」
 わざと声をかすれさせ、紬を誘う。指先で腹をなで、つんと立った乳首をはじく。
「ここも、したくねぇ……?」
 紬の頬がみるみるうちに赤くなっていく。
「ば、万里くんは、ずるい。……そんなの、したいに決まってる……」
 泣き出しそうなその顔は、嬉しいからなのか、悔しいからなのか。
 それは万里には分からないが、ひとまず紬の口をこれ以上汚さないという、当初の目的は果たされそうだ。両腕で紬の体を引き上げて立ち上がらせる。
「万里くん」
 なだめるように背中をぽんぽんと叩くと、紬はすぐに万里に指を絡めてきた。
 万里自身が言ったように、至近距離で紬からの視線を感じる。
 まだ素面のうちに、万里が感じているところを見るのは初めてなのだろう。いつもはたいてい万里の下で、とろんとろんにとろかされているのだから。
 瞬きさえも惜しいというように、熱っぽい視線に包まれる。きゅ、と握り込まれて思わずのけぞった。
「あっ……」
「万里くん、ねえ、気持ちいい……? 声、すごくエッチ……」
「……っん……いい、すよ、……ははっ、紬さんに見られてると思うと、すっげ興奮するわ……」
 吐息と一緒にそう呟けば、紬は嬉しそうに首筋に口づけてくる。さっきよりも近くなった紬との距離が、万里を余計に高ぶらせた。
「ん、あっ……は、はぁっ……ぅ」
 紬の指が、おずおずと乳首に伸びてくる。
 特別感じる場所というわけでもないし、自分のそこを開発する気もない。
 だけど、紬のたどたどしい指先がくすぐったくて、自然と腰が揺れた。
 そうすれば必然的に、紬の手の中で暴れるそれも揺れ、紬にダイレクトで伝わってしまう。
「すごい……万里くんの……」
「あ……? なにが、すか……っ」
「ねえ、いっつも……こんなのが俺の中に入ってるの? これが、俺の中……あんなにめちゃくちゃにかき回してるんだ……?」
「ちょっ、なに、それ、紬さんその顔やば……っ」
 大きくなっている万里を撫でながら、紬はうっとりとした目で囁いてくる。
 普段の紬からは、考えられないくらい色っぽくて、エロティックな瞳と声で、万里を責め立ててくる。ぞくぞくと快感が体中を駆け巡った。



2017/07/17
【装丁】A5表紙FC/36P/400円/R18
【表紙】ももこ様
【あらすじ】秋冬合同合宿の温泉で、盛大に浴衣をはだけさせている万里に怒る紬。それはヤキモチからくるもので、万里はちょっとしたイタズラ心で煽ってみたけれど――。
  
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