ハーモニー これが恋になる前に

2016/10/02



「あの、さ……俺、さっき」
「うん」
 拓巳は、珍しくゆっくりとした俺の言葉運びに、ちゃんと相づちを打ってくれる。
 促す目的でも、なだめる目的でもなく、ただここでちゃんと聞いているからという、優しいものだった。
 やっぱり、どうしても分からない。なんで相田先輩は拓巳でなく、
「相田先輩に好きだって言われて」
 俺の方にそんな感情を持ってしまったのか。
「えっ、なんで!?」
 一秒置いて、拓巳が素っ頓狂な声を上げた。驚くのも無理ないよね、やっぱり驚いていいんだと思って、その同調にホッとする。
「だ、だよな。なんで俺なんかって思うよなー、いや、でもあれが本気かどうかも分かんな――」
「そうじゃなくて、祐二、どういう状況でそんな流れになったの」
 ゆっくり俺の話を聞こうとしていたらしい拓巳も、驚きのあまり、そんな気遣いは頭からすっぽり抜けていったみたいだ。
 俺はその問いに、えーっとなんだっけ、と状況を思い出す。
「えーと、あれだ。お前がさ、なかなか先輩たちの部屋から戻ってこないなーって話してて。上手くいったんだろうなって、そういう話」
 あの時拓巳は、記憶を取り戻すきっかけは桧垣先輩しかいないって、話しをしに先輩たちの部屋に行った。相田先輩はこの部屋で待機していたけれど、話しだけにしては長く戻ってこない拓巳を、心配はしなかった。まとまるところにまとまったんだって、肩の力を抜いたみたいだったんだけど。
「その時俺さ、相田先輩はこれで良かったんですかって訊いたんだ」
「……なんで?」
「だって! 俺、相田先輩は拓巳のこと好きなんだと思ってたし!」
 絶対そうなんだって思ってた。桧垣先輩と争うつもりはないんだろうな、静かに拓巳を見守ってんだろうなって思ってたんだ。
 どうも間違っていたらしいその認識を叫んでみたら、拓巳はぱちくりと目を見開いて、あんぐりと口を開ける。「あり得ない」って言われているようで、今頃恥ずかしさが襲ってきた。
「馬鹿かお前は。どこをどう見たら、相田先輩が俺を好きなように見えるんだよ」
「……そんな風に言わなくたっていいじゃん……。だってさ、拓巳のことすごく気にかけてたし、あの時だって賭けの対象にするなって、めちゃくちゃ怒ってたじゃん。だからさぁ」
 思い当たる節は、探せばもっとある気もしたけれど、拓巳が項垂れた頭を抱えて、大きなため息をついちゃって、探す気力が飛んでいった。
「それでか……先輩が告るとは思ってなかったけど、そんなこと言われたら、そりゃ焦るよ……」
 お前が悪い、と指をさされて、俺は眉を寄せた。
 勘違いをしていたのは悪かったと思うけれど、そこまで言われるほどかなって考えて、ふと気づく。拓巳は今、相田先輩が告白するとは思ってなかったって言った。
 つまり、それは。
「えっ……、え、あ、あの、ちょっと待って。なあ、拓巳は知ってた? 相田先輩が、その、俺を……ってこと」
 俺はぎぎぎと音がしそうな硬さで、拓巳を振り返る。視線の先にいたのは、呆れたような顔をした親友だった。
「知ってたっていうか、気づいてた、の方が正しいかな。俺と話してる時もね、祐二の話題が多かったんだよ。それでもしかしてって思ってた」
「知るかよそんなの! なにそれ!」
「言った方が良かった? ごめん俺も自分のことで精一杯だったし……」
 なにそれ、なにそれ。
 相田先輩が、俺を好きっていうのは本当なの? なんで?
 俺別に女の子みたいな顔してるわけじゃねーし……いやそれ言ったら拓巳だってそうなんだけど、どっちかって言ったら拓巳の方が可愛いし、拓巳が女の子だったら彼女にしたいし、いや、でもそれとこれとは違うっていうか、あーもー何に驚いたらいいのかわかんねえ!
「も、信じらんね……なんで俺の周りホモばっかなの」
 もー力抜けた。ベッドに寝転がるけど、なんにも解決してない。むしろ増えた気がする。
「んー、俺はそっちかもしれないけど、先輩たちは違うんじゃない? 好きになった人が、男だったってだけだろ」
「桧垣先輩は分かんないじゃん! だってお前とつきあってんだし、相田先輩のことだって、好……、あ」
 思わず口を押さえた。
 ホモばっかって言ったのは、それなりに背景がある状態なんだ。
 拓巳は桧垣先輩が好きだし、その前に好きだったのも男みたいだし、抱えてた問題ってのも男のことだし。
 桧垣先輩は、女遊び激しそうなイメージだったけど、全然そんなことなくて、実は相田先輩を一途に想ってたわけで……。でも、そんなこと拓巳の前で言うべきじゃなかった。
「拓巳、ごめん……」
「ん? なにが、……って、ああ、いいよ俺は、別に。あの人が相田先輩のこと好きなのは知ってるし、これからも変わんないだろうし」
 だけど拓巳は、ハハッて笑ってあしらってくる。なんだよそれ、そっちの方が気に食わないんだけど!
「なにそれ、フタマタ? お前、怒れよそんなの! つきあってんだったら、権利あるだろ!」
 俺は別に、拓巳に対して特別な感情なんて持ってないけど、大事な友達だ。
 中学んとき全然助けてやれなかった分、これから力を貸してやりたいんだ。今まで苦しい思いいっぱいしてきたんだから、拓巳には幸せになる権利があるんだよ。
 だから、拓巳を泣かせるヤツがいたら殴ってやりたい。たとえそれが先輩でも。


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