恋の音が聞こえたら

2017/03/20



 馬鹿なことをしている、という自覚はあった。
 加納都は、ぼんやりした頭でもそう思い、大きく息を吸い込む。
「んっ……ぁん」
 そのタイミングを読んでか、男の手で足を大きく開かされ、ベッドにつくほど強い力で押さえつけられる。えぐるような熱を受け入れて、受け止めて、高い声を上げた。
「やあっ……、あ、駄目、だめ……こんなっ……おく、やだぁっ……」
 ギ、ギ、とベッドが軋む。襲い来る快感で、ちゃんとした呼吸ができず苦しい。都はそれを相手に訴えようとするのに、そのたび煽るように責め立てられて、努力も虚しくただの喘ぎに変わっていった。
「あ、ん、ん……っあ、ね、おねが……も、ちょっと、ゆっく、り……ぃっ」
「お前のここは、そんなこと言ってないな」
「ひっう……あっ……あぁっ」
 腰をがっちりと抱えて引き寄せる男に、負けてしまう。笑い混じりの声には腹も立つが、都は正直言ってそれどころではなかった。
「あ……はぁっ……ん」
 男の言う通り、体の方は嫌がっていない。それは分かっている。
 ふるふると首を振っても、腰をずらして逃げても、待ってと抑制しても、そこはぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てて男を引き入れ、引き留め、挙げ句の果てにはもっと虐めてほしいと腰を揺らすのだから。
 名前も知らない男相手に。
「やだ、いやっ……待って……待っ、て、駄目、こんなに……はげし、いの、も、あ……ぁっ」
 汗ばんだ腰を抱え込み、容赦なく突き立ててくるのは、つい数時間前に初めて逢った男だ。
 職業も知らない、どこに住んでいるのかも分からない、そんな男と、今ベッドの上でこんなこと。
「あ、やぁ……っん、んん、はあ……ッ」
 その後ろめたさが、快感を増幅させる。
「イきたいのか?」
「ん……ッんん」
 男の慣れた手つきも理由のひとつだろうが、クラクラと目眩のするような快感を、我慢していられない。都は男の肩に爪を立て、こくこくと頷き訴える。
「口で言え」
 だがそれが気に入らなかったのか、突き上げる速度がわざと緩やかなものに変わる。
「や……」
 ゆっくりと引き抜かれていく感覚が寂しくて、男の腰に足を絡めて引き留めながらも、都は顔を背けて指を噛む。いまだに残る、羞恥だかプライドだかが、そうさせているのだろうか。
「や、あ……っ」
 だが男はそんなこと気にも留めずに、小さく腰を動かして苛むのだ。都の欲を指でせき止めたまま。
 焦れったい、と都は熱い息を吐いて、涙で潤んだ目で男を見上げる。行為で乱れた黒髪が汗で額に張り付いて、それがひどく情欲を煽った。
「どうしたんだ、イきたいんだろう?」
「ああっ」
「ほら……」
 捻り込まれ、悲鳴にも似た声を上げる。男のものが内壁を擦り上げ、都を快楽の坩堝へと突き落としていく。
「あっ、あ、だめ、こんなっ……の、もう……っ」
 声を抑えることもできず、ゆるりゆるりと体内をいじり回され、都は音を上げる。
「おねが、い、イか、せて……イかせて、もう、やだ、やだぁ……っ」
「――いい子だ」
「やっ、あ、あっあっ……」
 男の手が都を握ったまま、しごき上げる。膝が揺れて、腰が沈み、背がしなった。
「ん、んふ……」
 朦朧とする意識の中で、都は男のキスを受ける。
 ――――俺、なに……やってんだろ……。
 舌を絡め、痛いほどに吸い上げてくる、名も知らぬ男を見上げ、その腕の中で都は果てた。



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