My Little

2017/12/21



 大きく息を吸い込んで、そして吐き出した。そうすることで体から力が抜けるのを知っていたからだ。
「なあ、大丈夫か?」
 心配そうに声をかけてくる男を見上げ、コナンはふいと視線を背けた。
「別に、大したことねーよ、バーロー」
「なんやとコラ」
 ぴんと指先が額を弾く。言葉を間違ったかなと、コナンは小さな手でその額を押さえた。確かに今の発言では、誤解をしてしまってもしょうがないだろう。
「……服部、あのさ、オレ、別に、全部……いれても、いい、けど」
 そういう意味じゃなかったんだと、コナンは顔を真っ赤にしながら言葉を紡ぐ。今、体の中に、異物がある。服部平次の、硬く勃ち上がったものが。それでも半分くらいしか入っていないだろうことは、密着しない肌でよく分かっている。
「何アホなこと言うてんねん。半分でも辛そうやのに、んなことできるかい」
 平次はため息混じりにそう返してくる。体の大きさが違う以上、無茶なことをしているという自覚は、多分お互いにあった。
 いけないことだと頭では理解していて、体も悲鳴を上げるのに、心の方が止まらなかった結果だ。
 何度かこうして肌を合わせたけれど、前提にあるのはお互いの若すぎる恋心。
 一緒にいるのが楽だった。一緒にいるのが苦しくなってきた頃に想いを自覚して、眠る欲を知って、口唇を触れ合わせ、初めて肌を合わせたあの日は、本当に死んでしまうかと思った。
「で、でも……お前、んなとこで、気持ちいいのかよ……」
 丹念に、丁寧にほぐされて、平次の熱とタイミング、大きさに慣れはじめたのはつい最近のこと。
 そもそも東京と大阪では頻繁に逢えるはずもない……はずなのだが、この男は頻繁に逢いにきてくれる。その優しさがむずがゆくて、居心地が悪い。それが嬉しさからくるものだと理解したあとには、想いがもっと大きくなってしまった。
「ええで。こんなちっこい体で頑張ってくれとんのやって思うと、えらいかわいいなあってなるし」
「それじゃ気持ちの方だけだろ、馬鹿っ、オレはお前にもちゃんと……っ」
「そやから、ええ言うてるやろ。ほら」
「あッ、動くんなら、言え……って!」
「だいぶやりやすなったな、工藤。ははっ、きゅうきゅう締めつけてきよるわ。……ほんま、かわええな」
 ゆさりゆさりと体が揺さぶられる。苦しさの中に快感を見つけだして、コナンは平次の肩にしがみついた。
「服部……っ」
 腹の中を掻き回される感覚に、コナンの息が上がる。しがみついたことで距離が縮まって、耳元で聞こえる平次の吐息が荒くなっていくのに気がついた。
「あー……やらしいなあ、工藤、ここ……すごいことになってるで……」
 笑う吐息は情欲に濡れていて、心臓が跳ねる。平次の言うそれが、どんな状態なのかは分からない。それでも彼が気持ちいいならいいと、背をしならせた。
「はあっ……あ、う……んぁ」
「声、やーらし……ほんま、それだけでイッてまいそうやで……!」
「ははっ、早漏かよ」
「ええ度胸やな工藤。もしそうやとしても、数で勝負したるわ」
 覚悟しとけやと呟いた直後、口唇が塞がれる。うねる舌に心も体も全部絡めとられて、欲張りな恋心は歓喜に震えた。
「んっ、んぅ……あふ」
「動くけど、ええか?」
 いまさらそんなことを訊ねられ、とろかされた意識の中でコナンは頷いた。
「ゆっくりするつもりやけど、キツかったら言えや」
 きつくなくはないけれど、コナンは知っている。気持ち良さのほうが勝ってしまうことを。
「あ、あ、いや……ダメだ、そこ、っ……だめ、あぅ……っ服部、服部ぃ……っ」
 大きく開かされた足の間に服部を感じて、立て続けに襲いくる快楽の波についていくのがやっとだ。押し込まれれば内臓が押し出されそうなむずかゆい快楽を感じ、引き抜かれれば心許ない寂しさで引き止めてしまう。
「工藤……っ」
 詰まったような吐息がすぐ近くで聞こえて、ざわりと肌があわだった。
「んぅ……っ」
 自分の体を通りて伝わってくる平次の欲望が、うれしくてしょうがない。
 本当は、本当に全部受け入れて、受け止めたい。こんな小さな体じゃなくて、ちゃんとした工藤新一の体で。
 そうは思うけれど、ひとつ気になる。気になるけれど、口に出せない。
 その仮説がもし真実になってしまったら、この関係は音を立てて崩れていくだろう。
 音にできない。
 そう思って、コナンは小さな指に歯を立てる。うっかり口にしてしまわないように、押さえていたい。
 それなのに、平次はそれを許してくれなかった。
「こら工藤、そんなん噛まんと、声出しとき」
「うあっ……」
 小さな手が、コナンに比べたら大きな手で引きはがされる。そのまま布団の上に縫いつけられて、音を押さえられなくなった。
「何考えとんのかしらんけどな、こうやって逢える時くらい、オレでいっぱいにしとけや、工藤」
 平次はそう言って笑う。ゆっくりと下りてくる口唇を受け止めて、コナンはあきらめたように目を閉じた。
(バーロー、どこもかしこもオメーでいっぱいだよ……)
 どこにも隙間なんかないと、握られた指先に力を込めて絡め返す。どうかこの優しい関係が、崩れてしまわないようにと、強く、強く。


「っは〜さっぱりしたわ。シャワーありがとなー工藤、……って、まだ起きられんのかいな」
「誰のせいだよバーロー! っ……いって」
 コナンはガバリと体を起こしたけれど、途中で腰の重みに負けて再度突っ伏した。
「くそっ……おめーなんか嫌いだ」
「オレのせいにすんなや。もう一回言うたんはお前やぞ」
 布団の側に座り込み、あやすように頭を撫でてくれる平次に、言葉が詰まる。確かにそういって誘ったことはおぼろげながら記憶にあって、否定のしようがない。逢えるときくらいいっぱいにしてほしくて、放せなかったのは真実だ。
「まあな、オレもちょっとやりすぎたかなって思とるけど。すまんなー、お前があんまりかわいかったさかい」
「か、わいいとか言うなよ……」
「なんでや。ほんまのことやで?」
 それは賛辞なのだろうが、素直に受け止められない。コナンは突っ伏した布団の上で平次を振り向き、困ったように眉を下げた。
「あの、さ……服部」
「ん?」
「ちょっと訊きてぇんだけど、お前ってその、なんていうかさ……なんでオレのこと抱けるんだ?」
「……なにしょーもないこと言うてんねん」
「お、お前の気持ちを疑ってるわけじゃねえんだよ、ただ、その……オレが元の体に戻っても、抱けんのかなて思ってさ」
 言うつもりではなかった。望まない答えが返ってきたらどうすることもできないのに、平次で満たされた心と体を持て余して、浮かんでしまった仮説に覆われてしまったのだ。
「待てや、なにを言うて」
「もしかして、その……小さい体にしか興味ねえとか、そういうーーいってぇ!」
 最後まで言い切る前に、平次の拳が頭にぶつかってきた。加減はしてくれたのだろうがその拳は痛くて、コナンは思わず目を潤ませた。
「この状況でなにアホなこと言うとるんじゃこのボケェ」
「こ、この状況だから言ってんだろ、普通はこんな小さい、しかも同性になんか欲情しねえだろうが!」
 性の嗜好は人それぞれだ。子孫を残すという本能的なことを考えれば、似たような年頃の異性に惹かれるはずで、それが大多数だ。それ以外は悲しいかな、世間から外れてしまうのが、現状である。
 だから平次が何度もこの体を抱きたがるのが不思議でならない。気持ち良さそうなのが納得できない。
 もしかしたら、そういう性癖を持っているのかもしれない。本人さえ自覚しないところでだ。人の性癖を否定するつもりはないのだが、もしそうであるならば、工藤新一の体に戻ったあとどうなるのか。それが、とても怖い。
「誰がんなちっこい男に欲情するかい」
「してねーのかよ!」
 ため息混じりに呟かれた否定に、思わず体を起こして文句を投げつけた。それにまた呆れたような息を吐かれる。欲情してほしいのかしてほしくないのか、これでは分からない。情けなくて恥ずかしくて、コナンは布団の上で俯いた。
「あんなあ工藤。俺は別に小学生にやらしいことしたいわけとちゃうで」
「……」
 何度もしたくせに、と口には出せないで、ぎゅっと小さな拳をにぎりしめる。
「オレかて女の裸にはそりゃあドキドキするし、触りたいとか思うけどな。けど……なんでやろな、抱きたいと思うんはお前だけなんや、工藤」
「抱……っ」
「ちっこい体でも、元の体でも変わらんわ。どっちでも関係あらへん。オレはな、工藤新一っちゅうお前に欲情してんのやで」
 頬を包まれて上向かされ、宥めるようなキスをされる。ちゅ、と音を立てて離れていった口の端で笑い、平次は言葉にしてくる。
「好きやで工藤。大っ好きや。元の体に戻ったら、ちゃんと抱かせぇよ」
 くらりとめまいがするようだった。いつのまにこんなに好かれていたのだろうと、叫び出しそうな口を押さえれば、腕の中に抱き寄せられる。
「そんで? オレにばっか言わせんなや、工藤」
 シャツ越しに、平次の心音が聞こえる。それは普段より速いように思えて、きっとものすごく照れくさいのだろうと気づいてしまった。
 コナンはふと口の端を上げ、平次の胸に頬を擦り寄せる。
「……好きだよ、バーロー」
「さよか」
 小さな声で呟いたつもりだったのに、これだけ密着していれば、聞こえてしまうだろう。
 そうなってもいいなと思いながら呟いた口唇が、どれだけも経たない内にキスで覆われていった。