瞳を閉じて

2010/09/20



 君はいつも目を閉じない。
 それを知っている俺も、目を閉じない。
 口唇が触れる寸前も、
 口唇か触れてからも、
 舌先が絡んでも、
 背中に腕を回しても。
 目を閉じるなんてそんな危険なこと、お互いにできないんだよね。
 そうだろうシズちゃん、分かってるさ。
 俺も君も、ただ単に持て余した暇と性欲を処理しているに過ぎないんだからね。
 愛しているとか好きだとか、そんなこと考える暇があったら手を動かすさ。
 目を閉じたらその瞬間に昇天したって文句は言えない。
 俺達はずっとそういう関係だった。
 首を絞められても、ナイフを突き付けても、蹴り上げても、拳が飛んできても、それが普通だって思っている。

 だから。

 だからやめてくれないかなシズちゃん。
 今さらそんな顔をしないでよね。
 初めて恋を知ったガキみたいにさ、キスごときに躊躇ったりさないでくれる?
 俺の手の平にあるナイフの切っ先は、どこに向ければいいのかな。
 君のせいなんだから、当然答えてくれるんだろうね。

「なあ臨也……なんて顔してんだよ…」

 俺じゃない、俺じゃないよシズちゃん。変な顔してんのは君の方だ。
 俺はほら、今にも君を刺し貫こうとしているだろう? 勘違いしないでほしいなあ、いくら肌を合わせたからって、心まで君にあげるわけないじゃない。

「調子が狂う。てめぇその顔やめろ」

 こっちの台詞だよ。俺を抱きしめたままの君に、俺の表情なんて見れるわけないのに!
 あんな鏡に映った俺が真実なわけないじゃないか、だいたい鏡なんてものは、ねえシズちゃん腕緩めてよ苦しい苦しい死んでしまいそうだお願いだからねえねえねえねえ!
 どうして、
 どうして今さら、目を閉じてキスなんかしてくるのさ。
 シズちゃんなんか、大っ嫌いだ。
 愛しい人間の中で、ただ君だけを愛せないんだよ知っているくせに!
 どうして今さら、そんな優しいキスなんか。

「大っ嫌い……」


 思わず目を、閉じてしまった。
 きっと君も閉じているんだろう。だけどお互いが閉じていれば、それを知る術はない。
 泣いていようと笑っていようと、関係がなくなる。
 ねえそうだろう。
 たとえ俺が君を愛していたとしても。