手を伸ばして

2011/01/30



 イッツァピーンチ。



 大きな問題が起こった。

 寮の、僕の部屋が燃えた。
 でもそれはまあ仕方ないかなで諦められる問題でもあったんだけど、困ったことが起きた。
 これからどこに寝泊まりすればいいかって、それももちろん大問題なんだけど、僕にとってはもっとデカい問題なんだよ!
 スガタの家に居候だなんて!!

「何を不思議がることがあるんだ?」

 僕にその大問題を投下してくれた張本人は、涼しい顔で僕を眺めてくる。
 気づけよ。
 気づけよばかぁ! 僕の気持ち知ってるくせに、なんでお前平気なの!

「僕の家は部屋たくさん余ってるし、タクト一人増えたところで、さして変わりないからな」
「……言うこと、それだけ?」
「うん?」

 まったく、この男は! 何もかもを知った顔していながら、自分のこととなると的が外れている。これだから島育ちの田舎モノは。
 ……いや、これはこの際関係ないか。そんな田舎モノ好きになっちゃった僕も僕だし。
 あーあ……どうしようこの状況。
 スガタくんは手強いよ?ってワコが笑ってた意味がやっと分かる。
 この鈍感なお坊ちゃま相手に、ワコはよくやってきたよ、うん。

「僕の助けが必要ないなら、そう言え。とは言え、綺羅星十字団が第三フェーズに移行してからは僕の力も効かないから、お前の助けになることなんて……ないんだけどな」
「スガタ……」
「お前はどんどん強くなっていくからな。ワコにもお前にも、僕は必要でない人間かもしれない」

 何言ってんの。
 何言ってんのこいつ。
 僕がスガタを必要としてない時なんて、今まで一回でもあった!?

「今だってほら、迷惑そうに睨みつけてくる」
「へっ? メーワク……って、違うってば!」

 何をどう勘違いしてんだか分かんない。どうすれば伝わるんだ?
 大きなため息をついた。まさかこの間言ったこと、ちゃんと伝わってなかったの?

「ねえスガタ、僕さ……この間きみのこと好きだって言わなかった?」

 玉砕必至で、一蹴されるの覚悟で告げた言葉は、【ふぅん】である意味一蹴された。
 それからもスガタの態度は変わらなかったし、拒絶されてないだけマシかなって思ってたけど、まさか伝わってなかったなんて。

「聞いたよ」

 だけどスガタから返ってきたのは僕の絶望を打ち破った。

「お前は僕に喧嘩を売っているのか? 買ってやってもいいけど、その前にはっきりさせておきたい」

 スガタの表情が一瞬で鋭いものに変わる。以前はよくみかけたけど最近はなかったせいで、息が止まった。
 スガタが怒ってる時の顔だって知ってるから、息が止まった。

「お前は本当に僕を好きなのか?」
「す、好きだよ! 疑ってんならそれでもいいけど、僕の気持ちも考えてよスガタ!」

 好きな人の家に行けるってだけでドキドキしたり、剣の稽古つきっきりで見てくれるの嬉しく思ったり、もちろん部屋は別々だけど同じ屋根の下で眠る時のバカみたいなそわそわとか、全然知らないくせに!

「お前の力になりたいと思ってる僕の気持ちは無視するのに、自分の気持ちだけ考えろというのは、不公平じゃないか、タクト」
「え、…………え!?」

 な。
 なにこれ。
 なにこれなんで僕スガタに抱きしめら…………れてんのおおおぉぉぉ!?

「あ、あの、ちょっ……スガタ」
「僕を好きだと言いながら、僕の手を取らないお前の気持ちが分からない」

 なんで僕が怒られんの。
 だってスガタは、僕が好きだって言っても何も返してくれないで、何でもないように接してきたくせに。
 なんで? ねえこれ、僕はスガタを抱き返してもいいの?

「お前がそんなだから、僕は不安になるんだ。手を差し伸べてもいいのか、抱きしめてもいいのか、好きだと言い返していいのか」

 ああ、……ああ、なんだ。
 僕の恋はとっくに叶ってたのか。
 伝えて諦めてたから、スガタの方が不安になっちゃったのか。
 なんだよ。なんだよもう、可愛いなスガタ。

「好きだよスガタ。きみが僕を想ってくれてるなら、きみがいちばんだと思う方法で僕を助けてほしい」

 これからも。
 そう言って背中をぎゅっと抱いたら、小さな声が聞こえてきた。
 僕がずっと聞きたかった言葉だ。

「好きだ、タクト」

 やっと言える、とため息に混じって聞こえたそれに僕は笑ってしまったけれど、本当は泣きたいのを我慢したんだ。
 そうか、僕はきみに手を伸ばしてもいいんだね。きみの手を取ってもいいんだね。
 手をつないで、満天の星空の下を歩く。歩く速度が同じタイミングで遅くなって、ついには立ち止まって。
 僕とスガタはキスをした。



 こうして輝かしいまでの充実した学園生活を送る僕だけど、ただひとつの誤算は、スガタの手が案外手が早いことだった。